株主の99%が個人株主。カゴメを推す「ファン株主」の存在が作り出す、エンパワメントの循環
社会にとってより良いお金の循環が増えることを願うMoney for Goodでは、企業の経済活動を支える存在にも注目しています。そこで今回は、食を通じて社会課題解決に取り組み、生活者にとっても身近な存在のカゴメ株式会社を訪れました。
カゴメは長期に渡り、個人株主との信頼関係を築いてきた企業です。約20万人の全株主のうち、実に99%が個人株主であるという事実は、企業活動にどのようなベネフィットを生み出しているのでしょうか。また個人株主のことを「ファン株主」と呼ぶなど、良好な関係を保つためにどんな工夫をしているのか、お聞きしました。教えてくれたのは、同社でIRを担当されている安藤希彩さんです。
個人株主は10倍カゴメ商品を買う”ロイヤルカスタマー”
-ファン株主と呼ばれている個人株主への取り組みは、いつ頃からどのように始まったのですか。
カゴメは2000年に企業理念を刷新しました。創業者・蟹江一太郎が最も大切にしていた言葉で、今も私たちに継承されている「感謝」と、カゴメの商品哲学とも言える「自然」、そして新しく加わったのが、社会に向けて「開かれた企業」であることです。
私たちがより「開かれた企業」であるために、銀行などの株式持ち合いではなく、実際に商品を購入くださっている生活者の方々に支えていただきたい、と考えました。株の単元を1000株から100株に切り下げ、当時1株約1000円でしたので、株を買うための費用を100万円から10万円に下げるなど、個人の方でも購入しやすくしました。当時は約6千人だった個人株主を10万人に増やすことを目標に、「個人株主10万人構想」がスタートしたんです。
2000年当時はまだ個人株主が少なく、新しい試みではあったものの、企業理念に基づいていたため経営層も積極的でした。今も年に1度の株主優待は、自社製品の詰め合わせをお送りしています。ありがたいことにご支援くださる個人株主は増え、現在では約20万人の方々に支えていただいています。
株主優待をお送りする際にはアンケートをつけているんですが、ご意見の多くから、カゴメを応援してくださっているお気持ちを感じています。アンケート回答率も約15%という高さです。実際、個人株主の方々は、一般消費者の10倍以上、カゴメ商品を購入くださってることもわかりました。
一方通行にならない、丁寧なコミュニケーションが育むもの
-ファン株主と良好な関係性を育む工夫について、事例を教えていただけますか。
カゴメが「開かれた企業」であるために、積極的に情報をお伝えすることを大切にしています。例えば、株主総会では質疑応答に限らず、総会後も対話と交流の機会を作り、どんな社員が働いているかを知っていただいたり、事業紹介のパネルを展示したりと、株主様とカゴメ社員が直接交流する場を作っています。株主総会自体が非常に明るい雰囲気で、社長である山口の人柄もあって、時々笑いも起きますし、カゴメらしさを感じていただけていると思います。
2014年から継続している「社長と語る会」も大変人気です。コロナ禍以降は少人数でオンライン開催ですが、直接社長に質問できる機会ということで、毎回、応募倍率も高いんです。事前にお送りする野菜生活100で乾杯して、いつもすごくアットホームな雰囲気で、そのせいか、「社長の好きなカゴメ商品」や「仕事上のマイルール」など、社長個人の考えに関する質問も多く出ます。もちろん「今後カゴメが狙っているマーケット」や「地球温暖化対策につながる活動」といった、事業に関する率直な話題になることも多いです。参加人数が限られていることもあり、挙がった質問はウェブサイトでも公開しています。社長にとっても、株主の声を直接聞ける、貴重な機会として非常に前向きに続けている取り組みです。
また栃木や長野などにある工場での見学ツアーも、いつもたくさんの方にご応募いただきます。トマトの畑で収穫体験をしたり、カゴメ製品を使ったカレーやゼリーなどのランチをお楽しみいただくこともできます。去年からはオーストラリアにある工場見学会も始めました。近年、国際事業の売上と利益が国内事業を上回るようになり、大変重要性が増しているため、個人株主の皆さんにもしっかりお伝えしたいという思いで企画しました。
オーストラリアでは人参とにんにくの圃場(ほじょう)を見学するなど、国際事業の品質管理についてもご安心いただけるようにご案内しています。環境課題に意識を高くお持ちの株主も多いので、例えば、オーストラリアの工場では太陽光エネルギーを用いることでCO2排出量を削減していることや、工場で使う水を循環させて畑の灌水(かんすい)に使っていることなどもお伝えしています。
参加された株主様からは、現地を訪れることでイメージし切れなかったことが明確になり「国際事業の成長性を実感できた」という感想をいただきました。また、そういう感想なども「しっかり情報発信した方が良い」というご意見もいただくなど、IRや広報の情報発信についても気づきをいただく機会でした。
-株主でありファンでもあるということで、そうした意見やリクエストもくださるんですね。
そうですね。ツアー開催後は株主様からいただいた貴重な意見を社内全体で共有し、真摯に受け止めるようにしています。ツアーに限らず、個人株主の皆さんからは、株主優待の内容に関するご要望や、限られた人数で開催している株主様とのイベントに「もっと参加人数を増やしてほしい」といった声が寄せられることもあります。
毎年春頃にご案内するトマト苗のプレゼントについても、大変好評につき「なかなか当たらない」というお声を多くいただいています。この企画では、トマト苗をお送りするのはもちろん、栽培方法を伝える機会なども作り、株主様と双方向のコミュニケーションを図っています。実際にできたトマトを、ただサラダで生食するだけではなく、いろいろな楽しみ方をしていただけるように、自社メディア「&KAGOME(アンドカゴメ)」で栽培中の様子を投稿いただくなど、株主様同士でも交流いただけるような場を作っています。
長期保有から相続も。10万人構想から20余年の今
-とても理想的に見えます。個人株主に関する課題もあるのでしょうか。
個人株主の方のなかには、株を長期保有してくださっている方々がたくさんいらっしゃいます。そのおかげで株価の安定に繋がっていますので、本当に多大な下支えです。長期間の保有に感謝を示し、株主10年目を迎えた方には、オリジナルの「トマト薫る特製グラス」をプレゼントさせていただいているんですよ。中央部分が太めになっていて、飲み口は少しすぼめてあることで、飲む時にトマトの香りまで楽しめるように設計された、トマトジュース専用のグラスです。
そのように長期に渡り、多くの方にカゴメを支えていただきたいと思うと同時に、「個人株主10万人構想」から20年以上が経ち、40〜50代だった方々は60〜70代になられています。株を手放されてしまう可能性に繋がることは、カゴメにとっては課題だと感じています。
そこで「三世代ファン化」としてカゴメに親しんでいただけるよう、お孫さんを含めたご家族で工場見学のツアーに参加いただける企画を作ったり、同時に、新たな個人株主の獲得に努めることも欠かせません。今の現役世代にももっとカゴメに親しんでいただける機会を作ることは、大事な施策だと考えています。
-その意味でも工場見学に招く意味は大きいんですね。
そうですね。先日は、個人株主の皆さんとの那須工場でのツアーで、「ナトカリ比」セミナーも行いました。高血圧を抑えるためには、ナトリウムとカリウムのバランスが大切、という内容で、野菜を食べる具体的な効果をお伝えしています。ご家族とお越しになる方も多いので、一緒に聞いていただくことで、特にお子さまたちへの食育にもつながると考えています。
先ほど、トマト苗のプレゼントについてもご紹介しましたが、栽培から野菜に親しんでいただくことを「植育」としても捉えています。大事に育てたものを、無駄なく大切にいただくことで、食べることの本質的な楽しみ方につながっていけば、と考えています。
親子やご家族に限らずお越しいただける場としては、長野県の富士見で「KAGOME野菜生活ファーム富士見」という施設を運営しています。ここでは農業を軸に、トマトをはじめとする生産現場のことを知ったり、畑で生物多様性に関するクイズに挑戦したり、またおいしいレストランもあるので、観光施設としてもお楽しみいただけます。
-個人株主になることは、双方にとって良いですね。
健康を促進する製品をご提供できていることは大きいですね。機関投資家とも違って、実際に生活の中でお試しされた上での感想や意見をいただくことができています。生活に根差した視点は、カゴメにとっても重要な価値です。
ですので、個人株主になることに興味を持ってくださった方にはまず、カゴメ商品に親しんでもらいたいと考えています。野菜生活100を毎日の食生活に取り入れてお気に入りを見つけてもらったり、カゴメのトマトジュースを楽しんだりして、まずはカゴメ製品を愛してもらえたら嬉しいです。
-最後に、安藤さんご自身が好きなカゴメ商品や会社のことを教えてください。
野菜生活100の季節限定シリーズが好きで、よく飲んでいます。もともと、野菜をたくさん摂りたいとは思いつつも、一人暮らしで食材を無駄にもしたくないので、工夫が必要だと感じることが多くありました。その頃カゴメに転職したんですが、手のひらを押し当てるだけで推定野菜摂取量がわかる「ベジチェック🄬」の数値がすごく低かったんです。先輩社員の皆さんは、数値が高いことにも驚きました。聞くと、積極的に野菜生活100やトマトジュース、野菜一日これ一本を飲んでる方が多かったんです。ありがたいことに社内の冷蔵庫から自由に飲むことができるので、自分で補えない分は、日々のこうした工夫で補うという意識が強まりました。
カゴメでは2020年から「野菜をとろうキャンペーン」を展開していて、日本人の野菜摂取の意識向上に努めています。もしスーパーなどに「ベジチェック🄬」を見つけたら、ぜひ試してみて欲しいです。
編集後記
20万人という膨大な個人株主に対して、少人数ながら大変丁寧に対応されているIRの皆さん。社長や役員、社員の皆さんとの対話の機会づくりが積極的なことも、いい意味で平等な関係性を保つ、大切な取り組みだと思いました。取材時にいただいた季節限定の野菜生活100、とてもおいしかったです。
取材・文:やなぎさわまどか
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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