チェーンストアも個性化する時代へ。それぞれの街に溶け込み「土着化」する、良品計画の目指す未来
良品計画が展開する「無印良品」は、シンプルなデザインと機能性、存在を捉えるアイコニックなえんじ色(弁柄色)。1980年代、消費社会に対するアンチテーゼとして誕生し、今や世界32の国と地域で事業を展開するグローバルブランドとなり、あらゆる生活シーンに浸透する存在となりました。2021年には第二創業を宣言し、地域に根ざした事業モデルを進めています。
目指す社会の価値観として、「感じ良い暮らしと社会」の追求を続けている同社では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。ひと月に約30万人が来店するという銀座店を訪ねて、総店長の成川卓也さんに訊きました。
「感じ良い暮らし」は、課題解決の鍵
-良品計画が求める「感じ良い暮らしと社会」について教えてください。
「感じ良い暮らし」とは、私たちがずっと掲げている価値観です。一人ひとりの暮らしが良くなればおのずと社会全体も良くなるだろう、という考え方ですね。人と自然とモノの望ましい関係性や心豊かな人間社会を考えた上で商品提案やサービス提供をするからこそ、「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献できると考えているんです。
そのために例えば、誠実な品質と倫理的な視点から生活用品を開発することや、使っていただくことで社会を良くする商品を手に取りやすい価格で提供すること。そして、それぞれの店舗が地域のコミュニティセンターとしての役割を持ち、地域の課題や価値観を共有して、課題解決に取り組むことを使命として掲げています。
環境問題もそうですね。私たちが資源循環型、自然共生型の社会への貢献を目指し製品づくりをすることで、それを使う皆さんにとっても、環境課題の解決を願う暮らしを実現する手助けになる。そういう存在でありたいです。
無印良品が誕生した1980年代は、大量生産・大量消費が進み、物の生産が需要を超えた時代でした。余ってしまうものを売るためにどんどん消費することが是とされていたことに違和感を覚えた創業メンバーによって、西友のプライベートブランドとしてスタートしました。楽だからというだけでリサイクルせずに使い捨てを勧める社会に対して、それよりも資源として回収することができる社会を作ろうと考えた。使い捨てを続けていると、少なからず環境に悪いことをしている感覚を覚えると思うんですが、個人がそんな負荷を抱えることなく、私たちが課題に敏感に呼応することで、環境にとっても人にとっても「感じ良い暮らし」をお手伝いすることを目指しています。
-従業員の皆さんにも「感じ良い暮らし」の価値観が浸透しているのでしょうか。
暮らしの中でどれほど実践できているかは個人によりますが、少なくとも良品計画としてのイメージは共有できていると思います。私自身も以前は商品開発の担当をしていたのですが、良品計画では「すでに世の中に存在する商品に全く不満がないのであれば、私たちが新たに開発する必要はない」という考えを持っているんです。素材を無駄にせず循環させることや、環境負荷を大きくしないことが、創業当時の思想を伝えることになっていると思いますし、その上で商品開発をすることが一番の社内教育に繋がります。実際に、お客さまが今お使いの物から無印良品の商品に切り替えていただいたとしたら、それによって循環型社会に参加されたというイメージをスタッフ自身も持てるかどうか。その意識を共有できることで、誠実な接客や安心した販売に繋げられると思っています。
土着化によって果たすお店の役割
-良品計画ではお店が土着化することを目指していると聞きました。「土着化」とは、どんな状態を指しているのでしょう。
お店の土着化は、地域の方々と一緒に課題解決に取り組み、その地域がより魅力的になることに貢献することです。地域に求められるお店になれたら素晴らしいですよね。
一昔前まで、チェーンストアといえばどの街に行っても全く同じ店であることが良しとされていましたが、もうそういう時代ではなくなりました。単純にお買い物をしていただくだけならオンラインでも十分にお役に立てます。金太郎飴のような店作りではなく、無印良品で買い物するならやっぱり地元の店舗が一番いい、と地域の方に愛着を持ってもらえるお店になることを目指しています。
コロナ禍を経て、毎月30万人が訪れる店舗に
-銀座の無印良品は2023年にリニューアルされましたが、どんなコンセプトがあったのでしょうか。
私が銀座に着任したのは、2021年の9月でした。まだコロナ禍真っ最中、銀座の街は閑散としていた時です。しかしそんななかでも地域の事業者の皆さんとお話しすると、お客さまが戻ってきた時のためにも「銀座の魅力を失いたくない」という気持ちを持っていました。また銀座にいらした方々に、やっぱり銀座はいい街だね、と思ってほしい。そのためにも銀座らしさを失わず、他の街との同一化を避けていきたい、という危機感があることを感じました。
無印良品もチェーン展開をしている企業なので、銀座店を他の街の店舗と変わらない作りにしてしまったら同一化の一端を担ってしまうことになります。そこで、他にはないお店にすることを一番のテーマに考えました。リニューアル前からホテルを兼ね備えていることにおける特別さはありましたが、各国からのお客さまが多い銀座の街において、どんな体験をご提供できるか。リニューアルにおける大事な要素でした。
-具体的にはどんなところに反映されているんですか。
ひとつは、世界の知恵や文化から学べるお店であること。それも、多くのお客さまに体感いただけることは食文化だろう、と考えました。無印良品は以前から、食は暮らしの中心にあるものと捉えているので、その価値観とも通じることです。
ちょうど食品の商品開発においてイタリア食材にフォーカスしていたこともあり、地下1階のダイナーは全てイタリア食材のレストランにしました。リニューアル前はニーズに応えるようなかたちで唐揚げ定食や焼き魚定食をメインにしていたので、メニュー内容はもちろん、店作りのコンセプトも全てイタリアンにしたんです。合わせて、1階ベーカリーでもリニューアルオープン時にはフォカッチャのサンドイッチを製造販売したり、食品売り場では現在もイタリア食材を多く扱っています。
それから、6階の「ATELIER MUJI GINZA」は、デザイン関連をテーマにした定期的に企画展を行う展示ギャラリーやショップのあるフロアですが、以前のカフェスペースを、コーヒーをメインにしたドリンクや軽食のオーダーができる「Coffee & Salon」にリニューアルし、同じフロアの自由に手に取ってご覧いただけるライブラリーとともに、どなたでもゆっくり寛いでいただけるようにしています。
これは元々、銀座のなかで「なかなか自分好みのコーヒーに出会えない」という声を聞いたことが大きかったんです。そこでサロンには大きなコーヒー豆の焙煎機を導入して、12種類のコーヒーを作れるようにしました。「銀座ブレンド」という、苦味が穏やかですっきりした味わいのコーヒーも作り、サロンではバリスタが淹れてくれますし、豆の販売もしています。そんな風に、多様な食文化のなかで新しい発見や体験をしてもらえる場所を目指して改装した場所です。
-リニューアル後の反応はいかがですか。
非常に良いですね。来館者数は、リニューアル後も増加傾向が続き、今では大体1ヶ月に30万人の方がご来館くださっています。無印良品は海外も含めて各地にお店がありますが、「銀座に行ったら無印良品に行きたい」と思ってもらいたいと思っていましたので、SNSや口コミでご来館者が増えていることはとても嬉しいです。
-銀座という街に土着した無印良品らしさについて、具体的にはどんな取り組みをされていますか。
銀座は老舗と最先端が共生している街なので、世界中の無印良品の中でも例にない取り組みをするのも、銀座店の役割の一つだと思っています。例えば、銀座では地域の事業者さん同士の繋がりも強いので、このサロンスペースを活用した取り組みとして、月に1度「銀座・ひと繋ぎBar」という交流の場を作っています。
「ひと繋ぎBar」は元々、どら焼きの「木挽町よしや」三代目の斉藤大地さんが「ひと繋ぎプロジェクト」という取り組みをされていたことにヒントを受けました。それともうひとつ、銀座ではバーに飲みにいくとそこにいるお客さまを紹介してもらえる文化があるんですよ。私もたまに飲みにいった先で、お店のマスターが地域の事業者さんを紹介してくださったりします。そこで私たちも、銀座のなかでご縁を繋ぐ文化を始めたいと思って、初回はよしやの斉藤さんをゲストにお招きしたのが「ひと繋ぎBar」の始まりです。毎月開催するようになって2年ほどになりますが、ここから人脈が広がっていくのを実感しながら継続しています。
「ファン株主」の声に耳を傾けて経営に活かす
-同じくサロンのスペースを活かして、株主・ファンミーティングを行っていると聞きました。独特な取り組みだと思いますが、何がきっかけで始められたのでしょうか。
ファンミーティングという呼び方にしたのは比較的最近なんですが、以前から私たちの企業理念や思想に共感して愛着を持ってくれる「ファン株主」の層を拡大していきたいと思っていました。銀座でもお店に来てくださる方には「帰る時には来た時よりも無印良品を好きになっていて欲しい」と思っているんです。そこでお客さまであり、地域社会の一員であり、さらには株主でもある方々とゆっくり対話することで、無印良品を展開する良品計画の経営にも参画いただきたいという思いで始めたことでした。
2ヶ月に1度くらいのペースで、毎回50名くらいの方がご参加くださっています。当初はもっと顔が見えてゆっくりお話できることを考えて始めたことなので、これからは1日2部制に分けるなど、運営方法を工夫していこうとしています。
-ファン株主の皆さんからは、どんなお声を聞くことが多いですか。
熱心なファンの方が来てくださることが多いんですね。もちろん株価のことなどを質問されることもありますので、経営企画部IRの担当者からも返答できるようにしています。例えばリニューアルした内装に関する感想とか、銀座店の品揃えの多さのこと、あるいは無印良品として今後はこういうことをやって欲しいという期待など、株価と店舗商品のことを同列で話せるのは面白い場だと思います。
また、いつの間にか自分たちで「無印良品はこうあるべき」という考え方に捉えられていたと気づくようなお声をいただくこともありました。例えば第二創業期以降、これまでかなり絞ってきた衣料品の色数を広げてカラーを増やしていることについては、広げすぎを危惧する社内の声もあった一方で、ファン株主の皆さんから「選ぶのが楽しい」とか「明るい色は着ていて楽しい」といったお声をいただきました。また麻や綿など天然素材100%にこだわっていた素材についても、例えば夏のジャケットなどは、化学繊維であっても風が通りやすい機能素材を使う方がより快適に着てもらえるといったことも同様です。実際私も、暑い時期はこのジャケットばかり着ていますし、同じ衣料品でもジャケットと肌着など、用途によって素材の使い分けができたら良いんですよね。無印良品はこうあるべきだと固執することより、お客さまの暮らしやすさを実現することが重要なレイヤーであるということを、ファンミーティングを通して再認識できています。
-これから取り組んでみたいことは、何か考えていらっしゃいますか。
ファンミーティングにおいても、銀座の中でもっといろんな方とご一緒したい、という考えはあります。というのも、無印良品だけに来ていても銀座の街のことはわからないからです。以前はお店を出て、「よしや」さんの近くでお借りした屋外の場所で映画の上映会をしたこともありました。上映会に限らないのですが、裏路地みたいなところも含めて街の魅力をお知らせできたら良いなと思っています。
また銀座店で順調に行っているこの株主・ファンミーティングを、全国の店舗でもっと開催できたら良いですよね。当社はコアなお客さまや個人株主が多く、ファンの方に支えられている会社ですので、皆さんとの活発な対話を経営にも反映していきたいですし、それこそがより良い店舗づくりや会社経営の実現につながると信じています。
お金の良い循環は、商売の本質
-社会にとって良いお金の循環を作りたいと願う読者に期待することは、ありますか。
これはいつも株主ファンミーティングでもご紹介しているんですが、2009年6月16日の朝日新聞で読んだ池上彰さんの言葉を引用します。
この考え方こそ、商売の本質だと思うんです。無印良品の商品を買うことで、環境に良いことや社会に良いことにつながるなら、一人で何か特別な行動をしなくても循環に参加できること。それが私たちの取り組んでいることです。無印良品の活動を知った上で、応援していただけるようであれば、商品を通してこの循環に参加していただく、それが私たちの願いです。さらに「感じ良い暮らし」の実現につながれば、より良いですよね。
編集後記
バブル期において大量生産・大量消費に疑問を投げかけた視点もさることながら、数十年ののちにこれだけ世界的なブランドになったことに感動を覚えるお話でした。思想の強さと、批判的検証能力、そして何よりも本質的な価値を見失わないでいる大切さを痛感します。
今や世界に1200店舗という無印良品が各地で土着化した世界は、どれほどカラフルなのか。想像すると、未来の経済が楽しみになってきます。
取材・文:やなぎさわまどか
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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