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日々の仕事が、気候変動対策に。株式会社メンバーズが目指す、DXによる社会課題の解決

取材時に手にしていたマイボトルは、COP28(国連気候変動枠組条約締約国会議)のロゴ入り。それが単なるおみやげではなく、自ら現地に出向き、気候変動に関する世界の潮流を体感した証だと感じさせるのは、CSV経営を推進する株式会社メンバーズ代表取締役社長の髙野明彦さんだからでしょう。
 
CSV(Creating Shared Value, 共通価値創造)経営とは、企業活動を通して、社会課題の解決に貢献する経営手法のこと。同社は自らこれを実践し、他社にも提案することで、経済的価値と社会的価値の創造を同時に叶える事例を多く創出しています。
 
10年後を見据えて掲げられた同社の「VISION 2030」では、重要課題として、気候変動、人口減少を中心とした社会課題を示し、事業を通して解決に貢献することを宣言しています。なぜ、メンバーズが社会課題を重要視しているのか、お聞きしました。


未来を読み、世間に先駆けたメンバーズの「CSV宣言」

-メンバーズのCSV経営について示された「VISION 2030」が策定された背景を教えてください。

社会課題解決型のマーケティングについては、前身となる「VISION 2020」でも掲げていました。まだSDGsもできていない、2014年のことです。CSVはアメリカのマイケル・ポーター教授が提唱した概念で、日本でも2011年頃から取り組む企業が出てきました。私たちにとってもCSVは、自分たちの価値観に近い考え方です。
 
もともと私たちが描くマーケティングでは、消費者と企業のエンゲージメントによって、企業が実現したい世界観が示され、それに賛同した消費者が行動変容をするといった成果を目指してきたんです。社名も「消費者と企業がメンバーシップの関係性になることを応援する」という思いに由来しています。
 
海外から少しずつ広がりつつあったCSV経営という概念が、自分たちのデジタルマーケティングとも相性が良さそうだ、とVISION 2020から取り入れました。

初めの頃は全然うまくいかなかったのですが、少しずつ事例を作ってきました。多くの企業も、それまでのマーケティングに限界を感じ、新しいことを求めていたんだと思います。商品やサービスの機能的価値だけでは差別化が難しくなっている今、本業による社会課題解決の取り組みや、それらの効果的な発信を通じて、顧客や社会と共有価値を創造することが求められています。
 
僕らが提案した社会課題解決型のアプローチを、前向きに受け入れてくれる企業が少しずつ増えていき、VISION 2020の最後の3年間で、いくつか大きな手応えを感じる事例が作れました。ならば次なる10年間もこのままビジョンドリブンの経営を続けようと決断できた。この時が大きな転機だったと思います。

(出所)メンバーズHP

-そうしてできたVISION 2030では、気候変動と人口減少を中心とした社会課題に着目していますね。

次の10年間で事業をより大きくドライブさせるために具体的な課題を定めた方が良い、という話になりました。取り組む課題を限定するわけではないのですが、ジェンダー平等、貧困、途上国など、社会にはあまりにも課題がたくさんあります。10年先の世界を見据えて、SDGsのウェディングケーキモデル(※持続可能な開発における経済・社会・環境に関するSDGsの考え方を図式化したもの)などを参考にしながら話し合いを重ねました。
 
結果として、グローバルで考えたら圧倒的に温暖化と気候変動、そして日本国内では、人口減少、特に生産年齢人口の減少と、それに伴う地方自治体の衰退が非常に大きな課題になるはずだと考えました。デジタルマーケティングやDX支援といった、私たちの強みとする分野でアプローチできることをイメージできたのも決め手になったと思います。いずれも簡単ではない課題ですが、大きな問題を掲げた方が自分たちも大きく成長できると思っています。

自ら実践者たれ。日々の仕事で課題解決アクション

-VISION 2030での「ソーシャルクリエイター」の育成・輩出と、社員の皆さんがデジタルをはじめとした日々の業務で実践できる脱炭素に繋がる取り組みリスト「脱炭素アクション100」は特に、メンバーズならではの取り組みだと思いました。なぜ、ソーシャルクリエイターの育成が必要なのでしょうか。

かつてみんなが描いていたような「テクノロジーによって便利になる社会」は、すでに相当程度実現しています。ではこれから追求すべき豊かさとは何だろうか、という議論を役員合宿やマネージャー合宿で重ねた結果、私たちが目指すのは、もっと心が豊かになることだと認識したんです。心が豊かで、持続可能な社会づくりに貢献しようではないか、と。
 
このまま日本の生産年齢人口が減少する中で、経済やインフラを維持するためには、生産性の向上が圧倒的に求められます。そのためには、デジタルIT人材を増やすことが欠かせません。弊社に限らず、デザイン思考で課題解決を図るクリエイターが必要になってきます。

メンバーズが過去に成果を出せたことのひとつとして、2011年の東日本大震災後、長期的かつ継続的に被災地の復興支援に貢献するために現地での雇用創出が重要と考え、宮城県仙台市にオフィスを作ったことが挙げられます。コロナ禍前からリモートワークをしていましたし、地方都市でも給料相場を下げたりしていません。地方で心豊かに暮らし、なんらかの地域還元をする人を増やす。それも私たちができる貢献であり、先日も大阪にオフィスを開設しましたが、今後も各地に増やしていきたいと考えています。

-「脱炭素アクション100」は、どんな内容ですか。

これは、クライアント支援を中心とした日々の業務において自分たちの行動の一つひとつを変えることで脱炭素社会の実現に貢献しよう、と考えたものでした。基本的に私たちはクライアントの事業をサポートする仕事をしているわけですが、脱炭素に繋がる行動で、クライアントへの提案や確認を要さずに実践できることはないか、と全社的に呼びかけたんです。
 
そうしたら思いの外たくさんのアイディアが集まってきました。画像を軽くし読み込みの負荷による電力消費量の削減や、エネルギー消費量の少ないプログラミング言語を採用すること、あるいは電力消費の少ないカラーやフォントを選択するといった小さなアクションが、半年間で約1000件も集まりました。
 
私たちのクライアントのウェブサイトやウェブサービスは相当量のトラフィックがあるので、こうした小さなアクションでも、積みあげたCO2削減量は「東京ドーム約25個分の杉林が1年間に吸収する量に相当」という、かなりの削減量だったんです。具体的なアクション内容はすでに公開していますので、多くの方に活用してもらえたらと思いますし、私たちもまだまだ今後も拡大して取り組み、クライアントの脱炭素の推進とビジネス成果創出の支援にも活かしていきたいと思います。

デジタルマーケティングやDXでの成果を出してこそついてくる価値

-貴社の環境意識も、お客さまに評価される理由だと思われますか。

こうしたアクションをきっかけにして、何かしらのご依頼に繋がることもありますが、ただ日常の現場においては、CSVのノウハウが最も評価されているわけではないと思います。
 
私たちがご支援している多くは、マーケティングや広報部署、もしくはデジタルのサービス開発やデータ分析といった部署なので、そこにおいてご評価いただける点はやはり、デジタルマーケティングやサービス開発など、あくまで我々の本業の部分です。
 
なぜかといえば、デジタルマーケティングやDXで成果を出せているからこそ、CSVでも成果を出せるわけで、成果が出せないところにCSV的なアイディアをくっつけたらうまくいった、ということはありえません。デジタルマーケティングやDXで成果を出せないとしたら、私たちがCSVを頼まれることもないでしょう。
 
現場で運用しているデジタルビジネスの中で、それをドライブさせるものの一つとしてCSVというものがある、という位置付けです。

ただし、今後は少し変わっていく傾向も感じています。企業は明らかに社会からのプレッシャーや期待を実感していますし、実務上でも、CDPに回答したりTCFDの情報開示をしたり、役員報酬にESGやSDGsのガイドラインを出すようになりました。今後は、部署の役割に関係なく、マーケティングや営業、プロダクト開発といった部署も含めて、全社的に社会課題を意識せざるを得なくなる可能性は大きいと思います。
 
実際、海外ではその方向に進んでいて、先進的な会社では、全社的にカーボンプライシングを使ったり、広告出稿先のCO2排出量まで見たりしています。日本がどこまで変化するかは未知数ですが、グリーンウォッシュを指摘する世間の目が厳しくなっているのは確かです。
 
少し偉そうな言い方になりますが、変革が求められている時代の中で、多くの企業が今「自社の存在意義」について悩まれているようにも思うんです。みんなで経済的に豊かになることを追求し続けてきて、でもそれだけじゃない時代になり、変革を求められているのは確かだけど、でも何ができるんだろうか、と考えている経営者は多いんじゃないでしょうか。自社のビジョンやミッションが明確でないと、すぐに矛盾が発生したり、ウォッシュになることをしてしまいかねない。サステナビリティや社会変革に対して、自社事業の役割を考え直し、どんな貢献ができるのかを再定義することが欠かせない時だと思います。
 
社会が変化する中、今後は今まで以上に、私たちのノウハウが付加価値になることも増えていくと感じています。

いかに価値を作り出せるか、変わらない信条

-髙野さんご自身も社会課題への意識が高いそうですが、きっかけはどんなことですか?

ペットボトルは買いたくないのでマイボトルを使い、車はEVにしました。自宅の屋根に太陽光パネルを載せて、足りない電気は再エネ100%の電力会社に契約、といった実践はしています。しかし、何かこれといった理由やきっかけで社会課題に関心をもったわけではないんです。環境経済学があるという理由で大学を選んだので、少なくとも高校生の時には関心があったんだと思います。
 
強いて言うなら、昔から権威主義みたいなものへの抵抗感はもっていました。スポーツでも政治でもビジネスでも、既得権益へのアンチテーゼが強く、たぶんそういう性格なんだと思います。誰かの犠牲の上に成り立つ幸せの構造は、そのまま気候変動の問題と実にわかりやすく重なることです。途上国、あるいは次世代という、温暖化の原因に責任がない人たちが犠牲となり、先進国や現世代が勝ち逃げる。この問題構造に対して何もしないではいられません。
 
既存の枠組みではないところで、いかに価値を作り出せるか。ベンチャーだった頃からの思想を変わらずに持ち続けています。

-2023年の春から代表になられて早1年。今後の抱負について教えてください。

代表になって進めたいと思っていたことがたくさんあったので、できなかったことの多さに悔しさもあるんですけど、その分、2024年はもっとアクセルを踏んでいこうと思っています。一つにはやはり、社会課題解決を通したVISION 2030をよりドライブさせていくことです。
 
なかでもポイントは、ウェブマーケティングに留まらない、広くデジタルビジネス運用の現場支援をもっと推し進めていくこと。かつては確かに、ウェブマーケティングの分野でトップランナーを目指していましたが、ウェブマーケティングは、デジタルの世界のほんの一部に過ぎません。私たちはすでに、AIとかクラウドといったデジタルビジネス全般へ軸足を移しているのですが、まだまだ主要プレイヤーとして認識されていないことを感じています。
 
これまでの実績が伸びた今、CSVに対する企業の反応も明らかに変わりました。今、大きな流れを感じている時でもあり、本領発揮はまだまだこれからです。

編集後記

メンバーズという企業の、強さと可能性と頼もしさを存分に感じた髙野社長のお話でした。かつて直面した倒産の危機においては、「経済利益を追求し過ぎたのが原因という反省があり、それ以来、事業を通して社会貢献をすると決めた」そうで、CSV経営とは、仕事に対する基本姿勢なのだと感じました。何のための仕事か。転じて、何のために生きるのか。人間が社会的な生き物である以上、私も健全な価値観をもって、臆すことなく、社会に向き合っていこうと思います。

取材・文:やなぎさわまどか
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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