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未来のために子どもの想像力を守りたい。教育の機会格差を減らす、ソニーの「感動体験プログラム」

小学生の放課後は、数十年前と大きく事情が変わりました。地域差や家庭ごとの違いはあるものの、塾や習い事で忙しく、遊ぶ時間がない。あるいは時間があっても、思い切り走ったりボールを投げたりできる、広い場所がない。または、時間と場所の都合が合う、一緒に遊べる友達が少ない。理由は千差万別ですが、学校外での体験時間は減少傾向にあるようです。
 
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことをPurpose(存在意義)に掲げ、創業当時から教育支援活動に取り組むソニー。子どもたちの体験機会の減少や教育格差の課題に向き合うべく、2018年に「感動体験プログラム」を開始しました。
 
持続可能な社会の実現には、気候変動や人権問題と並び、貧困問題の解決も欠かせません。ソニーの「感動体験プログラム」によってもたらされるのは、どんな効果なのか。プロジェクトを統括するソニーグループ株式会社サステナビリティ推進部の森 悠介(もり・ゆうすけ)さんに、詳細をお聞きしました。


見えにくいけど大きな問題「相対的貧困」

-ソニーの「感動体験プログラム」とはどのような取り組みですか。

ソニーは創業時からずっと、教育支援に重点を置いてきました。このプログラムはその一環として、2018年に開始した取り組みです。その頃はちょうど、さまざまな社会的な課題が浮き彫りになった時期で、特に低所得や教育格差は重大な社会課題として認識され始めた時期でもありました。
 
それまでソニーは全ての子どもたちを対象にした教育支援を行ってきました。しかし近年、これだけ社会に課題があるなかで、教育の領域における社会課題の背景はどういうものがあり、そこでソニーができることは何だろう、という検討を始めることになったのです。

まず大きな課題として、格差の解決に貢献することになりました。ソニーのリソースを活かし、体験格差の縮小にアプローチしようと考えたのが、感動体験プログラムのはじまりです。
 
現在の感動体験プログラムは、放課後の時間を対象にしたプログラムや、都市部から離れた地域に体験を届けることにフォーカスしたプログラムなどを、それぞれの領域を専門とする「放課後NPOアフタースクール」や「一般社団法人プロフェッショナルをすべての学校に」などの非営利団体とパートナーシップを組み、課題やニーズを考慮しながら実施しています。

-子どもたちの格差の実態は、深刻なのでしょうか。

内閣府の調査や日本財団のレポートを参考にしていますが「相対的貧困」と呼ばれる、同じ地域に住む人の平均的なレベルと比較した時に、経済的に厳しい子どもが増えていることは現実だと思います。
 
世帯収入が少ない家庭では、学校以外での体験機会が少ないことが調査からも分かっています。また、そうした家庭を見ると、学歴や収入などさまざまな理由から、親の体験機会も少ないことも分かっています。
 
習い事や塾、あるいは文化的な活動など、子どもが学校外の活動に参加できない背景には、経済的な理由がボトルネックとなり、その結果、体験格差が教育格差に繋がるという、複雑に絡み合った原因があると考えられます。
 
もうひとつ、経済的なことや家庭の事情だけではなく、地域格差もあります。都市部と地方では、何かを体験できる選択肢の数自体が違うからです。そこで私たちとしては、都市部から離れた場所にも体験を届けることが、教育格差の縮小に繋がるのではないかと考えて取り組んでいます。

感性を豊かに、自由でいいことを伝えたい

-プログラムはそれぞれどんな内容ですか。

ひとつは放課後に行う活動です。子どもたちの放課後は、すごく長い時間なのですが、先ほど挙げたような事情で、何かを体験する時間にはできてはいないことが増えています。そこで「放課後NPOアフタースクール」と一緒に、ソニーならではのコンテンツを活かしながら、放課後に特化したプログラムを提供しています。
 
例えばプログラミングツールを使うものや、aiboのようなAIロボットに触れること、また自分だけのアニメーションを制作したり、ミュージカルをつくるワークショップなど、エンタテインメント系もあります。こうした多様な組み合わせができることは、ソニーの強みかもしれないですね。

地域格差へのアプローチとしては、「一般社団法人プロフェッショナルをすべての学校に」と一緒に、生徒数が少ない小規模校を対象にしたプログラムを実施しています。主に都市部から離れた地域や離島の学校で、こちらは放課後ではなく、学校の授業として、オンラインでワークショップを届けています。
 
いずれも私たちだけではできない活動ですので、社外のパートナーと協力しながら、どんなニーズに何を提供できるかを話し合いながら進めてきました。

-子どもたちの反応はいかがですか。

嬉しいくらい喜んでくれます。どのくらいソニーという会社を知っているかは分かりませんが、実際にaiboと触れ合いながら、aiboの開発に携わった技術者から話を聞くなど、専門家が直接教えるワークショップは特に喜ばれます。時には本当に全身で喜びを表してくれることもあったりして、彼らにとって大きなことができていると感じさせてくれます。
 
子どもたちはこちらが思わぬことを思いついたり、想定外のことをしたりするんですよね。それがすごく面白いです。私たちはプログラムを提供してはいるものの、これに従ってつくりましょうというものだけではなく、「自分でつくる」、「答えがないことを考える」、「自由に考えてよい」といった価値観も伝えられるように努めています。

「ソニーのため」じゃなく「ソニーが成り立つ社会のため」に

-子どもたちに感動体験を届けることが、ソニーにとって重要なのはなぜですか。

そもそも子どもたちは守られるべき存在だと思います。貧困や教育の格差については、子どもたちに原因があるわけではないのに、リスクにさらされているのは彼らというのが事実です。
 
これは教育支援だけではなく、サステナビリティ活動全体に言えることですが、地球の中に社会があり、私たち企業はその社会の上に成り立つものですので、当然、地球環境も社会もしっかりしていないと、ソニーという会社が持続的に成長できません。子どもたちの将来が守られることは、社会にとって大前提。社会をしっかりした基盤として成り立たせるために、ソニーが教育支援をすることは、とても重要だと考えています。
 
私たちは、ソニーという会社を知ってもらい製品を買ってもらうことを期待しているのではなく、子どもたちの好奇心を育むことや、創造性を高めることで、いろんな能力を高めてもらうことを期待しています。それは、その子個人にとっても重要だし、社会にとってもとても大切なことですよね。

-活動の成果としてはどんな風に測るのでしょうか。

参加人数の累計や満足度のアンケートも大事ですが、私たちとしては、本当に子どもたちに良い影響を与えることができたのかが重要だと思っています。
 
私たちが実施しているプログラムのひとつに、長期プログラムがあります。長期プログラムでは約6ヶ月の間に複数回のプログラムを実施し、子どもたちの変化を確認しています。2年前から第三者団体に評価をお願いしているのですが、そのレポートを見ると、私たちが届けたいと考えていた好奇心や自主性などの非認知能力の指標が伸びていることが分かりました。

それだけではなく、拠点スタッフの方々が、子どもたちの具体的な変化を実感されていることも教えてもらえました。例えば、普段はやんちゃな子がプログラミングにはすごい集中力を発揮しているとか、他の子に丁寧に教えてあげていた子がいる、とか。6ヶ月のプログラム期間中で、スタッフの方々が今まで見たことがない子どもたちの変化を聞くと、楽しさだけじゃないことを届けられていると感じます。
 
個人差なども大きいですし、定量的な計測は難しいものですが、本当に効果や意味があるものを提供できているかどうか、できる限り見ていきたいです。

根本的な解決も。コレクティブインパクトの実践

-今後の展開としてはどんなことをお考えですか。

体験格差へのアプローチが、きちんと課題解決に寄与するものでありたい、と考えています。というのも、子どもたちの体験活動が充実したからといって、教育格差がなくなるわけではないからです。もっと貧困問題や学校教育などの複雑な背景を含めて取り組まないと、本当の解決はできないと思います。
 
ではどうすればいいのか、という議論を続けてきて、今挑戦したいと思っていることは「コレクティブインパクト」と呼ばれるものの実践です。

コレクティブインパクトとは、特定の課題解決のために、企業、NPO、行政、市民といった違う立場の人たちが力を持ち寄ることなのですが、具体的な進め方があります。まずみんなでアジェンダを共有し、同じ目標に向かっていくこと。それから、評価システムを同じにすることや、継続のためのバックボーン組織を持つなど、社会変革に繋げるための要素がいくつかあります。
 
専門家の話では、共通アジェンダを決めるだけでも数年間掛けるそうですし、これから他の企業さんやNPOなどに声掛けをする必要があります。また当事者の声を大切にするためにも一緒に活動する必要があり、関係者が多い分、コレクティブインパクトの実践は時間が掛かるものでしょう。しかし、これをやらないと本当の意味では解決にならないような気がしているので、難しくとも、どうやったらできるかを考えて取り組みたいと考えています。

編集後記

明日の食事や着る服はあるけれど、生活以外の余裕はない。人生の選択肢が強制的に減らされてしまう相対的貧困は、みんなの目に見えにくい分、解決にも時間が掛かるものだと実感しました。持つ者と持たざる者の分断が固定化してしまう前に、解決の糸口を見つけることができるのか。
ただ、プログラムに参加する子どもたちのリアクションを教えてくれる時、森さんの表情はとても明るくて「きっとこういう笑顔を子どもたちに見せてもらっているんだろうな」と感じさせてくれました。あらゆるデータを読み解き、現実の難しさを誰よりも知っているであろう森さんが笑顔である限り、希望がもてる気がします。

取材・文:やなぎさわまどか
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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