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先が見えないからこそ、「やってみなはれ」。サントリーに学ぶ、社会課題との向き合い方

「おかげさまで、ペットボトルの分別、素晴らしく進んでいます」
 
「家ではね。でも、外ではまだまだなんです」
 
「そうなの?」
 
「サントリー天然水」を飲み終えた香取慎吾さんと、しゃべるペットボトルとの会話から始まるこちらのCMは、2023年10月にオンエア開始となりました。飲料メーカのCMといえば美味しそうに飲むシーンが印象的ですが、サントリーが展開する「#素晴らしい過去になろう」シリーズのひとつであるこのCMは、飲み終わったあとに焦点を当てています。
 
「数十秒程度の貴重な枠の中で、サステナビリティに関するメッセージを発信するCMが世の中に増えたように思います」
 
このように語るのは、サントリーホールディングスサステナビリティ経営推進本部 副本部長・北村暢康さんです。
 
若い世代を中心に社会課題に対する関心は高まっていると言われています。世の中の意識が変化しつつある中、私たちはどう考え、どのように行動していけば良いのか、北村さんにお話を伺いました。

北村暢康(きたむら のぶやす)さんプロフィール
サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 副本部長。
東京都出身。1989年早稲田大学政治経済学部卒業、サントリー(株)入社。人事、営業、マーケティング、CSR、経営企画、生産各部門での業務を経て、2019年にサステナビリティ推進本部(当時)のサステナビリティ推進部長に就任。 サントリーグループのパーパスである「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」の実現に向け、サステナビリティ経営の推進に取り組んでいる。


豊かさは、過去からの贈りもの

-今、サステナビリティに取り組む意義を改めて教えてください。

日本は、自然が豊かであると言われることもあります。しかし、「『今は』豊かである」と言った方が正確かもしれません。
 
たとえば、私たちが美味しい天然水を飲むことができるのは、先達が豊かな森を育んでくれたからです。しかし、何もしなければ、近い未来にそうした豊かさは途切れてしまいます。過去の人たちが育んでくれた豊かさを次に繋ぐために、今取り組みを行わないといけないのです。

-サントリーはどういうことに取り組んでいるのでしょうか。

昔から取り組んでいることのひとつに、1973年から始まった愛鳥活動があります。当時は愛鳥キャンペーンとして新聞広告を出して話題となり、1989年には「サントリー世界愛鳥基金」を立ち上げました。
 
2003年には、サントリーの事業にとって最も大切な資源のひとつ「水」を育む「サントリー 天然水の森」活動が始まりました。これは、「使うばかりでは、いつか水は枯れてしまう」という危機感を持った1人の社員の活動からスタートしたものです。
 
手入れをされない森がいま、日本の自然課題を引き起こしています。背景には、林業の衰退などで、人工林の多くが放置されていることがあります。
 
間伐などの手入れをされない人工林は、地面まで光が届かず、低木や草が生えなくなってしまいます。すると生態系が崩れ、土にも変化が起きます。豊かな森の土は微生物や虫などによってふかふかに耕され、スポンジのような吸水性があり、そこに蓄えられた水は地中深くで清らかな地下水となるのですが、手入れがゆき届かない森の土は固く、水もあまり吸わないのです。

木の根っこが剥き出しになっている山を見たことがないでしょうか。土が水を吸わないから強い雨に打たれると、土ごと流れてあの状態になってしまうのです。放置すると木が倒れて、最悪の場合は山を滑り落ち、災害に繋がります。
 
我々は、工場の水源に当たるエリアの森林で、このような状態にならないよう、「サントリー 天然水の森」活動を通じて、地道に手入れをしてきました。その結果、少しずつですが状態が良くなってきています。
 
降った雨が地中でろ過されて、美味しい地下水になるまでには、約20年の歳月がかかると言われています。「サントリー 天然水の森」活動も、短い場合で10年20年、長いと50年以上の長期で取り組む必要があります。100年という長期間を見据えて取り組んでいる場所もあるんですよ。長い時間はかかりますが、豊かな森を未来に繋ぐために、森づくりを続けています。

「やってみなはれ」で一歩踏み出す

-今取り組んだことが返ってくるのは、何年も先のことなのですね。環境などの社会課題に対する取り組みは、成果やメリットが見えづらいです。それが原因で、取り組みがなかなか始められないといったことも、世の中には多いように感じます。

「見えづらさ」というのは、課題のひとつですよね。
 
企業が生み出す価値は、これまで、財務三表で測れるものが基準として考えられてきました。しかし、サステナビリティに取り組む価値は、同じ枠組みだけではなかなか測れません。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みが制定されていますが、生物多様性などについては、定量化・数値化が難しいという現実もあります。

重要なのは、数値化が難しい以上、経済的・金銭的メリットという「これまでのモノサシ」で見えるところだけを見て価値判断をするという従来の枠組みを越えることです。
 
そのためには、未来への投資視点など先々を見据え、社内で議論し、合意形成しながら経営判断をしていくことが大事だと思います。その拠り所にあるのが企業理念や、創業の志です。
 
自分たちの会社は、創業時より何を大事にして、何を目指して、どういった価値をお客様や社会に提供してきたのか。そしてその結果、社会のどのような立ち位置で生かされ続けてきたのか。これらに立ち返って、社内でしっかり議論し、肚落ちさせていくことが必要なのではないかと思います。
 
サントリー 天然水の森」活動も、こうした考え方に基づいて続けているのです。

-自社に対してどのような価値をもたらすのか見えづらい中で、サントリーはサステナビリティの取り組みを長年にわたって実践してきたと思います。サントリーの企業理念や創業の志は、どのように今の取り組みに繋がっているのでしょうか。

サントリーがずっと大切にしてきたこととして、「人・社会」と「自然」がトレードオフの関係にならず、両者をより良い関係に高めあう=響きあう関係を創るという企業理念があります。これは、サステナビリティの考え方そのものだと思っています。
 
また、創業者の鳥井信治郎がよく口にしていた「やってみなはれ」に象徴されるように、サントリーの企業文化には、「まずやってみる」という精神があります。
 
鳥井信治郎は日本で初めてウイスキーをつくった人物です。「日本の洋酒文化を切り拓きたい」「日本人の繊細な味覚にあった、日本のウイスキーをつくりたい」という思いから国産のウイスキーづくりに挑戦し、「無理だ」「やめた方がいい」と反対する声にも負けずにやり遂げました。そのおかげで今のサントリーがあると言っていいでしょう。
 
未知の領域であったとしても、お客様や社会にとっての価値があると思えば、手間を厭うことなく挑戦するのが「やってみなはれ」の精神です。「未来に対して確実な打ち手」などは存在しませんし、打ち手による成果も、長い時間をかけないと見えにくいものです。経済的なメリットも確実に生まれるかどうかわかりません。サステナビリティの取り組みも、まさにそういう気概で取り組まねばならないと思っています。

1社にできることは小さいからこそ、社会へ働きかける

-サントリーだからこそできる、社会への働きかけは何だとお考えでしょうか。

サントリーの強みはBtoCにあります。生活者の方々と商品を介して接点が持てるということは、商品を通じて伝えたいメッセージをダイレクトに発信し、世の中の意識を高めるような働きかけができるということではないかと考えています。実際、さきほどのペットボトルのCMに対しても、いろいろとポジティブなご意見をいただいております
 
具体的には、飲料のパッケージを通じたコミュニケーションを意識しています。たとえば、「ボトルは資源!サステナブルボトルへ」といったメッセージを商品のラベルで訴求しています。

商品や流通の店舗、CMなど、生活者が暮らしの中で少しずつ「社会にとって良いこと」を意識できる仕掛けをつくることが、生活者と近いサントリーだからこそ「まずやってみる」ことだと思っています。飲料だけでなく、さまざまなカテゴリーで同様な商品が生活動線に増えていけば、世の中の理解もさらに進むと思います。
 
また、新しい価値を見えるようにする取り組みにチャレンジすることも必要だと思います。サントリーの場合は、これまでの活動によってサステナビリティに取り組んでいる会社という認知が進み、評価もいただいています。それがお客様に弊社の商品を手に取っていただけるきっかけになっている肌感覚もあります。どのような要素がお客様に選んでいただけるポイントなのかは、まだ明確には見えていませんので、仮説を立てて検証するといったような可視化に向けたアクション、すなわち新しい価値を測るモノサシづくりは、やらなければいけないと考えています。
 
ただ、1社でできることは限られています。どこかの企業だけ頑張ればいいわけではなく、企業を超え、組織の壁を超えてやらないと社会はなかなか良い方向に変わっていかないでしょう。

同じ目標に向けて、「いっせーのせ」で取り組まないといけないんです。どこが切れてもダメだし、どこかのスピードが弛んでもダメなんですよね。

サステナ疲れをしないために「悠々として急げ」

-社会にとって良い取り組みをしたいと思う一方、何をすれば良いかわからない方もいらっしゃると思います。どのようなことから始めたら良いか、アドバイスをお願いします。

接するものごとの中から、何か気づくことはないか気を配ってみると良いかもしれません。商品のパッケージなどの身近に接するものの中に、気づきのヒントはあると思います。
 
企業の方から、「会社として何をしたら良いかわからない」という話も聞きます。これも同じ話で、目に見えるところから気づくことをやっていき、会社として体質化していくしかないのかもしれません。
 
あまり意識しすぎると「サステナ疲れ」になってしまうので、気張りすぎない方が良いですね。一方で、2030年までは時間があまりありませんので、しっかり急ぐことも必要です。「悠々として急げ」という当社で大切にされている言葉があるのですが、そのような気持ちで取り組んでほしいと思います。

編集後記

サントリーグループでは、2004年から「水育」という子どもたちに水の大切さを伝える環境教育を行っています。「水育」について、北村さんがお話されたことが、とても印象的でした。
 
「ある会合で名刺交換した27歳の男性が『僕、子どもの頃に水育に行ったんですよ』と話してくれました。小学生が対象なので20年近く前のことだと思うのですが、鮮明に覚えていると。その方は『結婚して子どもができたら絶対に水育に連れていきたいし、教わったことを僕自身が子供に教えたい』ともおっしゃり、感動しました。どんな成果が出るか明確にはわかりにくい環境教育の取り組みですが、20年近く経った今、成果の兆しを目の当たりにしたような気がして、感慨深かったです」
 
社会課題に対する取り組みを阻むのは、「長い時間をかけても、取り組みがムダになるのではないか」「お金がかかるだけではないか」というこわさもあるのかもしれません。
 
しかし、20年近く前に子どもたちに伝えたことが、大人になった彼らに影響を与えていることや、同じくらい長く取り組んできた「天然水の森活動」によって森林環境が改善されているといったお話からは、「今は実感がなくても、活動は必ず未来のためになる」という希望が感じられました。
 
先が見えない未来だからこそ、やる価値があると自分自身が思ったことを信じて、取り組み続けたいと思いました。

取材・文:松尾千尋
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

今回のシリーズは上場会社のサステナビリティについて取り上げています。サントリーホールディングスは未上場企業ですが、「サントリー天然水」などを扱うサントリー食品インターナショナルは上場企業(東証プライム市場上場)のため、このシリーズにて取り上げております。

さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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