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社会課題解決企業を目指す丸井グループがインパクトを開示。一人ひとりの幸せを本気で応援する理由

何気なく入った商業ビルが、実は再生可能エネルギー100%の電力で運営されていた。あるいは、デザインや履き心地が気に入った靴が、廃棄プラスチックからのリサイクル素材だったなど、ただ自分らしく暮らしているだけで課題解決に繋がる社会——想像すると、未来が少し、楽しみになってきます。
 
一人ひとりの幸せを応援する丸井グループでは、実現したい社会のかたちを明文化し、具体的なインパクト目標として掲げています。2021年に作成された当初の目標は、方向性をより明確にしたインパクト2.0として2023年にアップデート。2024年には、実現テーマとして「挑戦を奨励」「社会実験」「フロー」の3つを定め、それぞれの取り組みやKPIも公開されました。

実際にはどのような社内の施策が取り組みを支えているのか。また、こうした取り組みがなぜ、小売と金融という同社の本業に良い影響を及ぼしているのか。丸井グループの執行役員でサステナビリティ部およびESG推進部の塩田裕子さんにお話をうかがいました。


自主性を尊重する「手挙げ」の文化

-丸井グループが、人々の幸せやインクルーシブな社会の実現を重要視されているのは、どんな課題を感じているからなのでしょうか。

インパクト目標を掲げたのは、2050年に向けたビジョンを作ったことが始まりです。どんな世界をつくるために、自分たちがどんなビジネスをするべきなのか、何を創出していくのか、といったことを議論しました。私たちは、インパクトの実現と利益が対立し合うことを乗り越え、2050年までに共創を通じて社会課題解決企業になることを目指しています。

インパクトを実現する上では、丸井の企業文化を活かし、その上でウェルビーイングとサスティナビリティという二つの側面から社会課題にアプローチしていくことを考えています。2050年までの道のりを確実なものにするための課題は、基盤となる企業文化をいかに良いかたちにできるかどうか。私たちにとっては会社の人材こそが大切な存在であり、社員の存在も企業文化であると捉えて、人的基本経営を実践することから着手しました。

(出所)丸井グループ「IMPACT BOOK 2024

まずは目指す企業文化に向けて、同時並行で8つの施策を進めています。初めの軸合わせとしては、会社と社員が“選び選ばれる関係”でいるのかどうかを見直しました。社員それぞれ、挑戦してみたいことはどんなことなのか、または会社の理念に賛同してくれているのかどうか。会社と社員が同じ目標に向かって同じ目線でいられたら、良いサイクルが生まれるはず、という議論には、結構な時間を掛けて取り組みました。
 
社員たちが楽しく、自律的に動ける職場であること。これは丸井の「手挙げ」の文化にも通じることです。

-手挙げの文化とは、何ですか。

グループの社長であるの青井(浩)が就任した2005年から数年間、リーマンショックなどもあり経営危機に陥り、社内のいろいろなことを立て直す必要がありました。しかしその頃、社内の主要な会議に出られるのは役職がある社員だけ、それも男性ばかり。なかには居眠りしている人もいたため、参加したい人だけが会議に参加できるような仕組みに変えたんです。それが、手挙げです。
 
今は、会議に出るためには共通テーマでの論文を提出して、選考された人だけが議論に参加できるようになりました。それまで管理職たちが慣例的に出席していた会議が、役職に全く関係なく、新入社員でも選考される可能性も大いにあるんです。テーマに沿って提示された課題書を事前に読み、その上で論文を書きます。選考倍率も高い時は7〜8倍になることもありますね。会議に参加できなかった管理職は、会議に出れた部下や新入社員に「どういう会議だった?」と聞かなくてはいけなくなったんです。

手挙げによって、言いたいことがあり自ら手を挙げた人たちだけが集まりますので、会議で寝ている人はもういません。聞きたいことがたくさんあるし、質問もどんどん出るようになって、丸井グループの特徴的な仕組みになりました。今では会議だけでなく、社内のいろんなところで、この手挙げの仕組みを活かしています。

「好き」の力を徹底応援

-社員さんたちのモチベーションに直結しそうですね。

そうですね。インパクト2.0の中でも、「一人ひとりの『好き』を応援する」ことを掲げているのですが、あくまでも社員それぞれの自主性を大事にしたいと思っています。参加したい時に参加できる機会を作り、それぞれが仕事にも「好き」を活かせるような選択肢を用意することも、会社としての役割だと考えています。
 
「好き」を応援することに至ったのはいろんな背景があるのですが、ひとつには、自分たちの強みを考えたことが大きいです。例えば、解消したい課題をメインに掲げて、NPOのように、正面から社会課題に向き合うアプローチの仕方は、丸井の強みが活かせる手段ではない、と考えました。

さまざまなステークホルダーの存在が、丸井グループのアセットです。そのため、限られた人々の関心事項に限定するよりも、個別具体の「好き」を追求してもらい、その先で社会課題解決に繋がるようなサービスを用意しておくことが、自分たちにできる役割なのではなないか。私たちができることと、ステークホルダーの皆さんが願うことが重なる部分で、インパクトを強めていくことにしました。

(出所)丸井グループ「IMPACT BOOK 2024

頭だけで社会課題解決を捉えて、誰かのために取り組むことを目標にしてしまうと、するべきことに意識が向きすぎてしまい、結果的に苦しくなってしまうこともあると思います。でも、それぞれの「好き」を活かして、気づいてなかったけどこれで課題解決に繋がるんだ!と自分で知ることができたら、自分主体の、ものすごい熱量が課題解決に注がれることになる。そのルートを強めて、仲間を増やしていくこと。そんなイメージを持っています。

-より多くの方々を巻き込む方向性は、インクルーシブの実現にも重なるのでしょうか。

重なるところですね。2050年のビジョンには、「インパクトと収益の二項対立を乗り越える」と掲げています。これは、インパクト目標の達成と収益の両立が叶った社会では、地球環境vs人間社会とか、搾取する側vsされる側といった、あらゆる二項対立も乗り越えられるのではないか、と話し合ったことです。あらゆる分断を起こさないことこそ、私たちの考えるインクルーシブの実現です。
 
また丸井グループは上場企業ですので、大切なステークホルダーとして投資家の皆さんの幸せも叶えていかなければいけません。決して簡単ではないことですが、これもまた、あらゆるステークホルダーと価値を重ねた部分=丸井のインパクト、と捉えられたことによって、方向性や課題を整理することができました。

弱みを見せ合うチームの特徴

-インパクト目標とステークホルダーの要求が共創することを目指して、どんな施策をされていますか。

去年くらいから積極的に「社会実験」を重ねていくようにしています。丸井グループの強みとして、上場企業ですが大きすぎない規模感と、グループ経営であることから意思決定のスピードの速さが挙げられると思います。実験のサイクルを回すにはすごく適しているんです。

まだ実験結果が出切っているわけではないのでこれからではありますが、ひとつ事例として、応援投資の実践は重ねてきました。例えば、丸井が再生可能エネルギー100%の「みんな電力」に切り替えて、さらにクレジットカード会員さんたちにもおすすめをする。これは、2022年に途上国のマイクロファイナンスを紹介した時と同じスキームを活かしたものです。想定の20倍の申し込みがあったため、その手応えから今度は「みんな電力」の応援投資も進めてみたところ、やはり予定の10倍以上もお申し込みがありました。

それから将来世代の事業創出も支援しています。Future Accelerator Gatewayというプログラムでは25歳以下の参加者たちから画期的な事業案を選出し、手挙げで参加する丸井グループ社員が伴走しながら起業家からのメンタリングを受け、事業化まで行うものです。
 
2030年、あるいは2050年の社会を描くにあたって、将来世代の声は非常に大切に受け取っています。2011年からは、高校生でユーグレナ社のCFOをしていた小澤杏子さんに、丸井グループのアドバイザーを担当していただいています。彼らと話していると、本当に学びが多いです。

-具体的な取り組みを重ねて、現時点で、企業文化にはどんな影響が出ていますか。

自律性が進んだように感じています。私が担当する部でも、縦型ではなくアジャイル型組織に変えてきたことで、だいぶ個々が立ち始め、スピードも上がってきました。こうした変化はどうしてもトライアンドエラーを重ねるようになりますが、基本的に新しいことにチャレンジする企業でもあるので、意思決定も早いと思います。
 
また「挑戦の奨励」「社会実験」ともうひとつ、インパクト目標のテーマに「フロー」を挙げています。フローとは、ストレスがなく、目の前のことに没入でき、個人の力が最大限引き出される状態のことで、丸井では10年以上取り組んできました。取締役で執行役員でもある産業医の小島玲子さんと一緒に、どういう環境だと社員がフロー状態に入りやすいのか、実践と分析を進めています。

(出所)丸井グループ「IMPACT BOOK 2024

ひとつ、小島の分析ですごく興味深いと思ったことがあって、それは、フロー状態に入ることが多いチームにどんな特徴があるのかを分析したものです。この分析で強みを発揮できていたチームの一つが、障がい者採用のメンバーがいるチームでした。メンバーは障害の有無に関わらず、それぞれの苦手なことや出来ないことを開示し、お互いに共有し合っているチームです。
 
苦手を隠して強がったり、無理してがんばってしまったりといったストレスが少ないこと。それぞれのスキルマッチも分かり合えていること。そうしたことが結果として、心理的な安全性を高め、自分の強みに集中できるので、フロー状態に入りやすいという分析でした。

フローの分析は丸井グループ独自の指標も作って進めているんですが、これからも社員一人ひとりの主体性を高め、サポートし合える組織作りをしていきたいと考えています。 

後押ししたいのは、将来世代

-あらゆる工夫が丸井のインパクトの成果につながっていますね。

今の将来世代が豊かに過ごせるようにと考えることで、自分たちにも戻ってくると考えています。また将来世代の多くが、メリハリを持ちながらも基本的にはコスパを重視する傾向があるのは、社会不安を感じている表れと言わざるを得ません。
 
丸井に入社を希望してくださる方々からも一番多く聞くキーワードは「社会課題の解決」です。お金の使い方や、地球環境に関しても、利他の精神がすごく大きいんです。それはすごく大きな変化ですし、丸井ならそれができると思っていただけることはとても嬉しいです。彼らが主役になる時代のことをイメージして、大丈夫だよ、と後押しできるようなサポートをしていきたいです。

塩田さんが立ち上げた再生ペットボトル素材のパンプス「Kesou」

-塩田さんご自身は普段どんなことにお金を使うことが多いですか。また、課題解決に貢献したいと考えている方々に、アドバイスはありますか。

休日は自宅で過ごすことがほとんどなので、愛犬や家族のことに使うことが多いです。買い物でも投資でも、大きな金額を一度に使うというよりは、コツコツ積み上げていくものが自分には合っています。オフの日は思いっきり休み、それ以外は仕事をしているので、何か新しいことを学ぶのも、仕事を通して学ぶことがほとんどですね。自分自身の関心領域でもありますが、今は特にサステナブルなことを担当しているので、個人的な消費もサステナブル関連のものが多くなりました。事業企画でコンポストに取り組んでいることもあって、自宅でもバッグ型のLFCコンポストを始めましたし、丸井グループで立ち上げた再生ペットボトル素材のパンプス「Kesou」もよく履いています。

やはり自分で「面白い」と感じたことは、長く続けられるんだと思います。社会課題解決でも同じですね。私自身は今の仕事が面白いので、これからもっとサステナブル領域での学びを深めていきたいと思っていますし、何かに興味をもったら、あまり難しく考えすぎない方がいいんじゃないかな。面白いと思ったことに関わっていると、いつの間にか、何かに繋がっていくはずです。

編集後記

Money for Goodがお邪魔する企業に共通しているのは「雰囲気の良さ」ですが、丸井グループも例外なく、自由度の高さと風通しの良さを垣間見た時間でした。自主性を信じて、環境と機会を整えること。おとな世代の責任を体現している丸井の取り組みを聞き、自分にできることは何かと自問しています。

取材・文:やなぎさわまどか
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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