「カオス」から生まれるアイデアが、あたりまえを変えていく。メンバーズ 脱炭素DX研究所 所長 我有才怜さんと考える、仕事とお金との向き合い方
デジタルの力で社会課題の解決に挑む企業、メンバーズ。2024年4月には代表取締役社長の髙野明彦さんにインタビューさせていただきました。同社は社内カンパニー制*を導入し、社員が自ら事業を立ち上げることができる「カンパニー社長公募」等の制度によって20代の事業トップを輩出するなど、若手が活躍できるユニークな仕組みを積極的に取り入れる企業です。髙野社長に続き、今回は2017年に新卒でメンバーズに入社し、2023年から「脱炭素DX研究所」で所長を務める我有才怜さんにお話をお伺いしました。我有さんは就職活動中に「ビジネスを通じた社会課題の解決が、世の中を良くする大きな力になる」と考え、メンバーズに入社を決めたといいます。
若手が事業拡大の戦力となり、進化を続けているメンバーズ。進化し続けるためのポイントと、我有さん自身の仕事とお金に対する向き合い方について訊きました。
*社内カンパニー制:事業単位で組織をくくり、それぞれを独立した会社(カンパニー)として扱う企業形態の一つ。カンパニーはそれぞれ独自の意思決定により事業を行う。
マーケティングの力が、サステナブルな行動をあたりまえに変える
-入社から現在のお仕事に至るまでの経緯を教えてください。
もともとは、貧困や格差、食糧危機、少子高齢化などの課題に関心があったんです。大学時代は途上国支援に関する研究をしており、卒業後もその方向でキャリアを積みたいと考えていました。
政府系の組織や国連機関などへの就職も検討しましたが、調べていくうちに「気候変動や貧困などの社会課題の要因のひとつは、これまでのビジネスのやり方にあるのではないか」と考えるようになりました。さらに、ビジネスを通じた社会課題の解決がもっと必要だと感じるようにもなりました。そんな風に思い始めたタイミングで友人からメンバーズについて話を聞く機会があり、「生活者と企業のあり方を変えていく」という方向性に共感しました。企業のマーケティング支援を通じて生活者にアプローチするメンバーズの事業には、ビジネスのあり方を変える力があるかもしれないと考え、入社を決めました。
入社当初はWebサイトの構築などを行う部署に所属していましたが、2年目の秋に、社会課題解決型のビジネスを本格的にやりたいと考え、当時メンバーズの子会社だった、現在の脱炭素DX研究所の前身となる組織に、公募制度で手を挙げて異動しました。そして、脱炭素DX研究所を立ち上げようという話が持ち上がった時、「所長をやってみないか」と声をかけてもらったことが、現在の仕事に至った経緯です。
-脱炭素DX研究所は、具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
脱炭素DX研究所は、脱炭素DXカンパニーという組織と両輪で活動しています。脱炭素DXカンパニーは、収益を創出する部門として企業の脱炭素経営をDXで支援する事業部門です。一方、脱炭素DX研究所は、脱炭素経営の支援に必要なリサーチや分析を担う機関です。サステナビリティの領域に関わる業務には、規制や国際的な動向、企業の対応状況、循環型のビジネスモデル事例について必要な知識が多く、またそれらは日々大きく変化しているので、脱炭素DX研究所がこうした情報の調査や分析を行って考察や見通しを示すことで、脱炭素DXカンパニーの業務に必要な材料を提供しています。また、ワークショップや勉強会などで企業との接点を作りながら、脱炭素に関する企業の困りごとを捉えて事業の種を探すこともあります。
「カオス」を作り「問い」を立てることが、イノベーションを起こすポイント
-メンバーズにはどんどん新しい事業が生まれ、とても勢いを感じます。新しい発想は、どこから生まれると我有さんは考えますか。
インスピレーションを掻き立てられるような、良い「問い」から、アイデアは生まれると考えています。仕事でワークショップやイベントを企画する際の会議では、「そこに良い『問い』はあるか」という点をしっかりと話し合います。
良い「問い」を生むには、意識的に「カオスな状態」を作ることが効果的だと思います。アイデアが生まれる瞬間って、論理的に正解を求めている時よりも、何が生まれようとしているのか全くわからない無秩序な状態の時が多いのではないでしょうか。
カオスな状態を作るための方法のひとつとしては、没入型リサーチがあります。たとえば、「これからの『美』のあり方」というテーマを考えるために、禅寺に行って伝統的な美のあり方を体験する、というようなやり方ですね。そうした方法でリサーチを行っていくと、普段「美」について考える時には持てなかったような視点が、体験と共に集合知としてたくさん入ってくるんです。その得られた視点や体験を広げた時に、カオスな状態になります。そこから、「これとこれを繋げてみたら、面白い問いが出てくるかも」という手応えを感じることが多いです。
-さまざまな人材が活躍しているメンバーズは、「カオス」が生まれやすい環境かもしれませんね。
そうですね、さまざまな専門性を持つ3,000人以上(2024年11月6日時点)の人が集まっているという時点でカオスと言えます(笑)。
失敗を許容する文化も、カオスが生まれやすい要素かもしれません。会社では、「とりあえずやってみよう」「仕事は断るな、できる方法を考えよ」とよく言われます。脱炭素やサステナビリティの領域では、全く経験のないことや、初めて聞くような言葉・ガイドラインなどに出会います。そういうものをとにかく知ろうとして、取り入れることによってイノベーションが起き、新しいサービスを作っていくエンジンになっていると感じます。
また、新卒でも手を挙げて事業を立ち上げる機会を得られる「カンパニー社長公募」の制度に代表されるように、「自分がやりたいことに挑戦できる」という風土もカオスを生んでいるかもしれません。「次世代リーダー塾」という、カンパニー社長や経営幹部を目指す若手を主な対象とした経営人材育成プログラムがあり、それがきっかけで私の同期がメンバーズの大阪拠点を立ち上げた事例もあります。
若手が責任ある立場を任されるということは、経験が少ない中でいろんなことに挑戦するということです。経験が豊富な人には思いつかないような方法で仕事を進めることもあると思いますし、チャレンジするからこそ失敗もたくさんあります。それが時として、驚くようなアイデアに繋がることもあるように思います。
ただ闇雲にチャレンジするだけではうまくいく確率が上がらないと思いますが、メンバーズは経営層と一般の社員の距離が近いことで、若手の成長が促されているような気がします。私自身も、メンバーズの社長と食事に行くこともありますし、カンパニー社長ともたくさん話をします。そうした交流を通じて、若手が経営の考え方を知ることができる機会がとても多いと思うんですよね。階層を超えて交流がある文化は、若手が経営視点を持ったり、どこかの領域を引っ張っていきたいという気持ちを掻き立てる効果もあるように感じます。
-我有さんは、「Futures Design」というメソッドの日本展開や、「Climate Creative」という気候危機に立ち向かうためのプロジェクトに携わっていますよね。こうした取り組みも良い「問い」を見つけるために、とても役立ちそうです。これらの活動についても教えてください。
「Futures Design」とは、ありたい未来を描き、そこからバックキャスティングでものごとを考えるというアプローチ手法で、企業向けにワークショップ形式のプロジェクトを企画することが多くなっています。
「Futures」の「s」は、「〜の」という意味ではなく、複数形の「s」で、「未来は複数ある」ということを意味しています。このメソッドでは、さまざまな未来の形を想定し、それを拡散させながら、ものごとを考えます。多視点で「変化の兆し」、つまり未来に影響を与えそうな出来事をリサーチし、カオスを作って洞察を深めます。そして、それらの洞察から「フューチャーズ」をたくさん描いていき、その中から目指したいものを選び取りながら戦略を立て、新規事業や新製品などを検討するという考え方をしています。
「Climate Creative」は、「IDEAS FOR GOOD」というデジタルメディアを運営するハーチ株式会社と共同で立ち上げたプロジェクトで、「創造力で気候危機に立ち向かう」をテーマとしています。脱炭素ビジネスや環境負荷を減らすための取り組みは、既存の事業とのコンフリクトによって思うように進まないことがあります。一方で気候変動については、不可逆的な事態を避けるため、世界平均の温度上昇を産業革命前に比べて1.5度までに抑えようというボーダーラインも設けられています。こうした制約を、クリエイティビティを生み出す源泉にするというマインドチェンジを組織に浸透させ、ビジネス変革を試行錯誤できる人材が各企業にいると良いのではないか、というビジョンで、さまざまな企業の人たちと繋がるためのイベントや、伴走支援を行っています。
こちらの活動も、サーキュラーデザイン系のワークショップをすることが多いですね。月に1回くらいのオンラインイベントも開催していて、「CO2排出量表示はヒトの行動を変えるか?」というテーマの回がとても好評でした。
サーキュラーデザインというと、再生可能な素材で作るとか、アップサイクルして不用品から別の製品を作るというような、製品に焦点を当てた発想が多い一方、そうした製品があまり生活者に受け入れられないこともあり、それが多くの企業の悩みになっています。ワークショップや講演イベントでは、製品周辺のサービスやビジネスモデルも含めて考える、製品視点だけではないアプローチを提案しています。具体的には、使わなくなった製品を回収するための拠点やフロー、リペアのためのビジネスモデルなどを整備し、プロダクトに関連する仕組みを作り込むといったことですね。
目指したいのは、さまざまな属性の人が集まって、仲間を見つけ、一緒に実証実験をやっていけるような場です。どんどん「カオス」を作っていって、変化のきっかけになるアイデアを、世の中の役に立つ形で実現するきっかけを作っていきたいです。
仕事もそれ以外も、全てが人生の一部
-我有さんにとって、お金と仕事はどういうものでしょうか。
私の好きな言葉に、世界一貧しい大統領と呼ばれているホセ・ムヒカさんの言葉があります。その言葉は「 『ものを買う』というのは、稼いだお金で買っているのではなく、労働をした時間で買っているのだ」というものです。この言葉を思い出すと、お金を使うことも、お金を稼ぐことも、それぞれ自分の人生を構成している一部なんだと感じられます。
だからこそ、仕事以外の部分も大切にするように心がけています。例えば、「この地域の中で暮らしている」という意識が、地域のものを買ったり、地域の活動に参加したりという活動に自ずと繋がることがあります。仕事以外の身の回りの活動が、大事な生活の一部になり、「ちゃんと生活をする」ことが、お金に向き合うことにもなっているように思います。
また、仕事とそれ以外のメリハリは大事にしつつ、気持ちの部分ではあえて曖昧さを残すようにしています。個人的に参加しているボランティア活動では、普段の仕事では接点を持たない方々から、ビジネス目線とは違った気付きを得られることがあります。それが、仕事に役立つインスピレーションに繋がることもあります。
仕事で稼ぎ、稼いだお金で得た体験がまた仕事にも繋がるということが循環しているイメージですね。会社には色々な人が集まっているので、それぞれの経験が相乗効果を生み出すと良いな、とも思っています。
-これから仕事で取り組んでいきたいことを教えてください。
生活者の行動変容を促すようなプロダクトやサービスの開発がもっと進むような働きかけをしていきたいですね。生活者にサステナブルなものを積極的に選んでもらい、長く使ってもらえるための仕組みがしっかりできていることが、脱炭素に向けた大きな一歩になるのではないでしょうか。生活者の声を集める仕組みを整備し、みんなの力で大きくものごとを動かすような体制を作ることも必要だと感じています。「Futures Design」や「Climate Creative」での取り組みも、ワークショップで検討した内容を実際のプロジェクトに落とし込んだり、製品のリデザインやサービス開発などに伴走するという活動に繋げていきたいです。
メンバーズは、生活者と企業をデジタルマーケティングで繋ぐ中で、サステナブルな暮らしを導いていけるような事業を行っています。生活者と企業が同じ方を向いて、温室効果ガス排出に依存せずにウェルビーイングに生きられる社会の実現に向けて行動できるような仕組みを、仕事を通じて作っていきたいです。
編集後記
自分の軸をしっかりと持ち、仕事にもそれ以外のことにも真っ直ぐに取り組んでいる我有さんの姿勢が、とても素敵だと思いました。また、お話を伺い、お金と向き合うことは人生そのものに対して向き合うことなのだと気付かされました。全てが繋がっているこの社会の中、しなやかに、かつ自分自身の価値観を大切にして、ものごとに取り組みたいと思います。
取材・文:松尾千尋
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
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さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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