茎も芯も、おいしい。味の素が「捨てたもんじゃない!」で目指す、フードロス削減が当たり前になる日
523万トン(2021年度、農林水産省、環境省調べ)。東京ドームなら約4.2個分。これは、年間に日本で廃棄されている食べ物の総量です。人口で計算すると、日本に暮らす私たちが全員もれなく約150g、ご飯茶碗1杯分ほどの食べ物を毎日捨てていることになるそうです。
一方で、世界には飢餓に苦しむ人々がいます。世界中で支援された食料の総量が440万トン(2020年、消費者庁)ですので、それを上回る食品が日本だけで捨てられているのです。単純に食べ物が無駄になるだけではなく、廃棄に伴う運搬や焼却がCO2の排出増に直結しています。
こうした問題の解決を、組織の重要課題のひとつに掲げ、食材を使い切ることの楽しさやメリットを広く啓蒙し始めたのが、味の素株式会社でした。自社メディア「AJINOMOTO PARK」にて展開するフードロス削減プロジェクト「捨てたもんじゃない!~TOO GOOD TO WASTE~™」とは、一体どんな活動なのか。同社食品事業本部の淡川 彩子さんにお聞きしました。
長年の知恵と努力の結晶、「一物全体」
-「捨てたもんじゃない!™」が始まった背景を教えてください。
味の素は食品を扱う会社であることから、ずいぶん前から原材料を無駄にしない取り組みを実践していました。例えば、香り高いだしを作る「ほんだし®」という商品があるのですが、かつお節を作る時にできるさまざまな副産物も大事な資源と考えて、内臓も骨も丸ごと活かし切る研究を重ねています。
1997年に「かつお技術研究所」を設立し、かつおの頭と内臓は発酵食品にさせて魚醤などの調味料に、かつおの煮汁は凝縮してカツオエキスにし、調味料製品の原料に、そして中骨はカルシウム食品の原料として活用するなど、限られた資源を大切に使い切る工夫をしてきました。
「捨てたもんじゃない!™」が立ち上がった2022年は、幅広い方々にSDGs意識の高まりが見られている時でもあり、こうした我々の取り組みも皆さんに広くお伝えしたいと考えるようになりました。それまでほとんど社外には発信していませんでしたが、食品を扱う企業として原材料を大切に想う姿勢や、商品製造の背景も発信しようということになりました。
当たり前を目指し、フードロスからの「気づき」を応援
-具体的な活動はどんなことをされていますか。
大きく2つあって、ひとつはオンラインを中心に行っているフードロスに関する情報発信、もうひとつは、スーパーなど流通の店頭で行う活動です。
オンラインでは、「AJINOMOTO PARK」のSNSやウェブサイトから「捨てたもんじゃない!™」ブランドの情報発信を始めました。フードロスに関する読み物の制作や、すでに家庭内でフードロス対策を実践している方々にテクニックを教えていただくオンラインイベントも開催してきました。
ウェブサイトではフードロス対策になるレシピもたくさん紹介しています。「捨てたもんじゃない!™」レシピとして、4つのポイントを考えました。余らせがちな食材の活用レシピ、作りすぎてしまった料理のアレンジレシピ、皮や茎や芯などの捨ててしまいがちな部位の活用レシピ、そして、野菜を丸ごと使えるレシピ。このどれかに当てはまれば「捨てたもんじゃない!™」レシピとしています。
スーパーなど流通の店頭では、余りがちな野菜をおいしく使い切るレシピをメニューブックにし、弊社製品と一緒にご紹介しています。2023年から本格的に取り組み始めたことですが、流通先でもうれしい反響をたくさんいただくことができました。
-どんな反響が多いんですか。
まず流通にとっては、大根やキャベツなど野菜が丸ごと販売できることがメリットになり、喜ばれました。半分あるいは1/4などカットして販売するには、ラッピングに人件費と包材コストが掛かるので、野菜が丸ごと販売できる方が良いんですよね。
それと流通も、環境配慮やSDGs課題に取り組みたい一方で、店舗単体での推進がなかなか難しいため、我々メーカーと一緒に取り組めることがありがたい、とも言っていただきました。
また、実際に店頭で野菜を購入されるお客さまにとっても、フードロスを削減できることが満足感につながるようでした。それだけに限らず、昨今の物価高で節約思考が高まっていることもあり、野菜を丸ごと買うことのお得感や、おいしく活かせるレシピで家族も喜んでくれたという、嬉しいお声も頂戴しました。
-食材を無駄にしないことが、満足感に繋がるんですね。
我々としても、無駄にしない方法をお伝えすることだけが目的なのではなく、食材を無駄にしないことが当たり前になる社会を目指しているので、こうした小さなきっかけで、食品に対する視点が変わることはすごく嬉しいですね。
例えば「捨てたもんじゃない!™」レシピの中に、エノキの根元だけをガーリックバターで焼くレシピや、ブロッコリーの芯を輪切りにスライスして、ザーサイ風に食べられるレシピがあるんです。根元や芯も、使い切った方が良いと思いながらも捨てていた、あるいは、使い方がよくわからなくて捨てていた、という方に「ちょっとやってみよう」と思っていただき、実践の一歩を踏み出すきっかけになれたら、すごく嬉しいです。
食べながら考える、CO2の削減効果
-味の素社だからこそできることもありますか。
私たちが目指しているのは、フードロス削減が何か特別な行動ではなく、毎日の暮らしの中で当たり前に実践されることです。味の素は食品を扱う会社で、製品群がたくさんあるので、お客さまとは特に、食の接点が多いと考えています。この特徴を活かして、生活の中のさまざまな食を通じて、フードロスの削減をお伝えできたらと考えています。
そのためにも、我々から一方的に発信するだけより、お客さまの声を聞き、一緒に作り上げる共創関係になりたいと思っています。「捨てたもんじゃない!™」レシピでも、今どんなものが求められて検索されているのか。遷移数や実践率といったところを追いながら、生活者視点をしっかり捉えていきたいです。
-「捨てたもんじゃない!™」レシピには「デカボスコア」という数値が出ていますね。
デカボスコアは、Earth hacks社という会社が提供しているサービスを利用させていただいております。「捨てたもんじゃない!™」レシピでは食材を使い切るレシピを載せているので、新たに買ってきた食材で同じレシピを作った場合との、CO2排出量の削減率を示しています。
水分が多い生野菜は、廃棄するにもCO2がたくさん排出されてしまうので、捨てずに、おいしく食べきることができれればCO2の排出を下げることに繋がるんです。デカボスコアの算出自体は、農家さんからの輸送や調理する時の火加減、時間なども考慮してEarth hacks社に計算していただいています。
ただ決して、デカボスコアが高いレシピを作って欲しい、という意味ではないんです。デカボスコアを載せている理由は、食材を使い切ることが家庭内のフードロス削減だけじゃなく、いろいろな環境配慮に繋がることをお伝えしたいと思ったからでした。ちょっとした工夫やアイディアで、環境に良いことができることを楽しんでもらえたら嬉しいです。
広げていきたい連携の輪
-「捨てたもんじゃない!™」を盛り上げるために、どんな企画をお考えですか。
ちょうど1月9日〜2月29日まで、『日本全国ご当地対抗!フードロス削減「捨てたもんじゃない™」グルメグランプリ』を開催していました。47都道府県それぞれのご当地食材で「捨てたもんじゃない!™」グルメを開発し、応援したい、食べたいと思っていただいた都道府県に投票いただき、ナンバーワンを決めるものです。各自治体の協力に加えて、ご当地キャラクターにも登場していただき、企画を盛り上げていただきました。
全国の支社・支店のメンバーと共に企画の準備を進めることができ、さまざまな方との接点を持つことができました。投票結果も3月に発表を終え、たくさんの声をお聞きできる企画になりました。
-将来的に「捨てたもんじゃない!™」ではどんなことに挑戦したいですか。
個人的に考えていることは、他のメーカーさんとの協働です。というのも、我々もフードロス削減に取り組んでいるものの、1社だけで世の中を変えられるわけではないと思うからです。今は弊社ブランドとして進めている「捨てたもんじゃない!™」ですが、将来的には他の業界やメーカーさんも参画していただくことができれば、もっと大きなアクションに繋がり、課題解決に貢献できそうですよね。
さまざまな企業と共に資源を大切にする施策を進めて、いつかそれが当たり前の社会に変えていけたら、理想的だと思っています。
編集後記
おいしくて環境にもいいことを、楽しそうに教えてくれた淡川さんのお話に、変わりゆく未来が見えているような強さも感じました。なぜなら記事を1本作るのも、ゼロからイベントを企画立案することも、ましてや47都道府県を巻き込んだ全国規模のキャンペーンを始めることも、並大抵の思いでできることではないからです。たくさんの叡智が集まり、今やるべきことはこれだと推すことが、無駄なくおいしく食べ切ることだった。その事実と思いに強く共感するとともに、食材を端から端まで活かすことが当たり前になる日を待ち遠しく思っています。
取材・文:やなぎさわまどか
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
さまざまな企業がそれぞれに工夫をし、社会課題解決のためイノベーションをおこしています。皆さんが生活者として商品を購入するだけでなく、企業の株式を購入することで、社会課題に取り組む企業を応援することができます。株主として経済的価値を享受しながら、社会的価値も生み出せるのです。社会を良くしようとしている企業を応援してみる。あなたのできる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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