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その指、とめて。エンタメに負けない面白さで社会を知る1分動画。RICEメディア代表・トムさんの挑戦

ほんの1分、されど1分。スクロールする指をとめた1分間にできるのは、「知る」ということ。
 
「日本一面白く社会を知れる」とうたう動画メディア「RICEメディア」は、困りごとを解決する画期的な技術や、困難な状況にある人を助ける事業など、社会のために良い取り組みを取材しています。
 
わかりやすいショート動画がバズる度に、多くの視聴者の心を掴み、チャンネル登録者数は34万人を突破するまでに急成長。表情豊かでユーモラスに、時に体を張った企画で発信する同メディア代表のトムさんを訪ね、事業の根幹にある思いを聞きました。

トムさんプロフィール
Tomoshi Bito株式会社代表取締役、本名・廣瀬智之。高校生で途上国の支援活動、大学生でカンボジアの教育ボランティアなどに参加。在学中から報道写真家として途上国の取材を行い、メディアでの執筆や写真展を企画。「伝える」ことの重要性を再認識したことから、卒業後は株式会社ボーダーレス・ジャパンを経て起業。情報過多の中でも多くの人に届けることを意識し、2021年7月、社会課題を知る動画メディア「RICEメディア」を展開。企画立案に止まらず、自身も「トム」の愛称で出演。SNS総フォロワー数、45万人(2024年2月時点)。


伝えたいことを、相手の「見たい」に変える

-RICEメディアを見ていると、新しく知る社会課題がたくさんあります。多くの人に知ってもらうために、どんなことを意識していますか。

社会課題を発信する大前提として、社会に無関心な人はいない、と思っています。ただ、自分から「地球温暖化 解決策」とか「貧困問題 現状」とか、わざわざ検索して調べる人はまだ少ないだけで、けっして、社会のことなんてどうでもいい、と思って生きている人はそんなにいない。現時点でまだその問題を知らないだけ、そう思うんです。
 
それなら、「見たい」と指を止めるようなコンテンツを作れれば、社会的な内容でも見てもらえるんじゃないか、と考えました。自分たちが伝えたいことを押し付けず、相手の知りたいものに変えていくことを大事にしています。

 僕たちが変えていきたいものは、社会課題との関わり方なんです。情報やニュースがこれだけ飽和している今、わずかに空いた時間に何かを見ようと思ったら、選ばれるのはどうしても自分の好きなものが優先になりますよね。多くの人はエンタメや、疲れている時でも気軽に見れるものを選ぶはずです。
 
結果的に、社会課題に関することは「見る人は見るけど、見ない人は全く見ない」という分野になったと思います。それなら僕らは、社会の話を誰にでも見てもらいやすい、誰もが親近感をもてるようにしよう。そう思って、僕らが毎日、毎食でも飽きずに食べられるご飯をアイコンに、RICEメディアという名前をつけました。

-確かにRICEメディアは、トムさんたちの意見や考えではなく、誰かの取り組みや活動など、あくまでもファクトを伝えていますね。

誰かの意見を押し付けられたり、完璧でいることを求められると苦しくなっちゃいますよね。完璧ではない自分をダメだと思ってしまうし、できてなくて申し訳ない気持ちになったりしたら、もう見たくない、と思ってしまうでしょう。ネット上の言論空間では「知ってる人」が「知らない人」に対して威圧的になったり、是か非かの議論になることもあります。しかし僕たちが進めたいことは、今知らない人も一緒に巻き込んで、社会をポジティブな方向に変えていくこと。そのためには、社会課題を知ることや行動を押し付けないことは、徹底して気をつけています。

「求められてはいない」から始まった変化

-現時点で関心をもっていない人にも届けるために、どんな工夫をしていますか。

工夫していることはいろいろあるんですが、一番は僕たちのマインドセットが大きいかもしれません。あくまでも自分たちが伝えたいと思っているだけで、そもそも「社会課題のコンテンツは誰にも求められていない」と考えているんです。

先ほども言ったように社会に無関心な人はいないと思っていますが、社会課題の情報に触れること自体そもそも少ないですよね。自主的に知る以外、知るきっかけがないまま忙しく日常を過ごし、結果的に関心が薄れてしまっている状態だと思います。ショート動画に社会性を求めていない方々を前提にしたことで、本当に届けるためのことを考えるようになりました。
 
どんな問題を、どんな風に伝えたら気にしてくれるのか。どういう映像なら指を止めて見たくなるか。僕らのひとりよがりな伝え方にならないよう、みんなでアイディアを出し合って、内容を詰め込みすぎないことにも気を遣っています。届けたい人にちゃんと届くよう、基本的には1つのイシューに対して1つのソリューションを、1つのメッセージに絞る。興味がない人でも関心をもつような、社会課題への「入り口」になりたいです。

-反響が大きい動画もたくさんありますが、実際に誰かの行動変容につながった、と実感した経験はありますか。

RICEメディアを見たことで変わった、というご連絡はものすごくたくさんいただいています。僕が使い捨てプラスチックを使わないで暮らす「1カ月プラなし生活」という企画は、ほとんどの動画が再生回数100万回以上と、想像以上に多くの方に見ていただくことができました。視聴者の方からは「ゴミの分別をちゃんとするようになった」とか「使い捨てを避けるようになった」など、DMやコメントで数えきれないほどご連絡をいただいています。

2023年の「プラなし生活」では初めての試みとして、丸井グループに協力していただき、「脱プラ生活応援フェス」というイベントで1ヶ月のフィナーレを迎えました。会場に来てくださった方の中には、「あんな生活ぜったい無理だと思ったけど、挑戦している姿を見て自分にできることを考えた」と言ってくれた方や、小学生や中学生がYouTubeで見つけて、保護者の方と一緒に来てくれたりしたんです。オフラインのイベントは初めてでしたが、1000人もの視聴者さんに会うことができて嬉しかったです。

プラなし生活以外でも、視聴者さんからの反響を聞くことは多いです。RICEメディアで紹介した企業に自分でアポを取って、九州でひとりスタディツアーをした神奈川の高校生とか、自分も社会課題の勉強をしたいと思って進学する学部を決めた、という声もありました。ショート動画を作り始めた当初、僕らがまず果たすべき役割は「知ってもらうこと」だと思っていたので、まさかこんなに誰かの行動変容につながるとは、嬉しい誤算という気持ちです。

こうした反響からも、やはりみんな無関心なわけじゃない、と思います。社会なんてどうでもいいと思っているわけじゃなく、動くきっかけがなかっただけ。ちゃんと情報が届けば行動する人たちがたくさんいる。そんな性善説に沿って事業をしています。

-これから取り上げたい社会課題はどんなことですか。

考えていることはたくさんあるんですよ。地球温暖化に関してはもっとできることがあると思いますし、ファッションやアパレルに関する社会課題も気になることがあります。あと僕自身、社会課題に関わるようになった学生時代から「幸せってなんだろう」と考えていたので、幸福に関するテーマにも関心があります。

今は、見た人にとって良いテーマであり、コンテンツとして面白いものにできるかどうか。現時点では視聴者さんにより届きやすく、インパクトも出せそうなテーマから順番に、ひとつずつ取り組んでいるところです。
 
また逆に、現時点では難しいと思っているテーマもあります。例えば人権とか紛争といった人命に関わるテーマは、今の明るく楽しいテンションで取り上げるべきではないと思うからです。それから政治的なことも。コメント欄が荒れるかもしれないし、僕らがどういう政治的意見をもっているかが目立つと、それによって離れる人がいるかもしれません。しかし政治的なことも僕らみんなにとって大事な課題なので、今後はRICEメディアとは違う、別のチャンネルを作って取り上げたいと考えています。

発信の先にある「見たい社会の変化」

-視聴者が増えたことで、企業からの問い合わせも増えていますか。

そうですね。「自社の取り組みを発信したい」「若手社員と一緒に取り組みたいがノウハウがない」といった相談をいただくことは多いです。RICEメディアで企画監修をしたり、コンテンツ制作に関わることも増えてきました。
 
実際、結果も出ているんですよ。例えば2023年の年末、食品ロスになる食材をレスキューする「TABETE」さんとコラボ企画をしたんですが、元々のきっかけは、RICEメディアが勝手にTABETEのサービスが素晴らしい、と動画で紹介したことでした。その動画をきっかけに、ユーザー登録が10万人も増えたそうです。そこで、食品ロスが増える年末に改めてコラボ企画のお問い合わせをいただくことができました。

-RICEメディアとして今後の展開はどんなことを予定していますか。

考えているのは、社会をもっともっと知れる世界になること。そのために、社会を面白く発信する人が増えることです。RICEメディアというチャンネル1つで世の中に与えられる影響は限られていると思っていて、影響力をもって社会課題を啓蒙する発信者が増えていく必要性を感じています。
 
メディアなのかインフルエンサーなのか、パブリッシャーとジャーナリストの間みたいな立場で、社会を興味深く伝える人が増えたら良いと思うんです。ボーダレス・ジャパンがボーダレスアカデミーを作って社会起業家を育成しているように、RICEメディアも発信を学びたい人を育成したいですね。できたら3年後くらいには、若い世代が何気なく見ているタイムラインに、政治やジェンダーなどいろんな社会課題の面白いコンテンツが流れて、実はそこにRICEメディアが関わっている、みたいな仕組みを作りたいと考えています。
 
そのためにもまずはRICEメディアの事業をもっと大きくさせたいです。2024年は、登録者数100万人を目指していることと、合わせて、新しいメディアを2つ立ち上げる予定です。創業以来ずっと3人体制でしたが、現在新しいメンバーの採用もがんばっています。

-社会課題の解決に取り組みたいと思っている読者に、何かアドバイスをお願いできますか。

僕たち自身も大切にしていることなんですけど、いきなり完璧を求めなくていい、と思っています。すごく大きなことを最初から達成しようとしたり、全て完璧にしようと考えて、それが故に躊躇している人が多いように感じるんです。それよりも、やってみたいことをまずは1歩でも踏み出してみること。もしも1歩が大変だったら0.1歩でもいい。微力であったとしても無駄ではなく、その積み重ねが変化を生み出す力になっていくと信じています。まずは、これ良いな、と心がときめいたことや、目の前にあることをやってみる。最初の1歩がとても大切だと思います。

編集後記

相手に変化を求めずに、あくまでも情報を届ける役割に徹することで、社会課題を自分事化するきっかけを発信するRICEメディア。トムさんたちは、願う社会の実現のために、自分にできることをとことん追求していました。視聴者の価値観や行動変容に影響を及ぼしている話には、マハトマ・ガンジーの「Be the change you want to see in the world.(見たい世界の変化に、あなた自身がなりなさい)」という言葉を思い出しました。大きな自然災害と共に始まった新しい年に、自分にできることを自問しています。

取材・文:やなぎさわまどか
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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