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食品飲料メーカーの脱炭素化への挑戦

この記事は2023年9月27日に日興フロッギーに公開された「食品飲料メーカーの脱炭素化への挑戦」を一部編集し、転載したものです。

近頃、よく聞くようになった「脱炭素化」や「カーボンニュートラル」。気候変動への問題意識が世界中で高まり、金融機関や大企業も既に取り組みを始めています。

こうした流れの中心は、電力会社などのように温室効果ガスの排出が分かりやすい企業ばかりではありません。実は私たちが食べたり飲んだりしている物も温室効果ガスの排出と関係していることをご存知でしょうか?

「食べる」までに排出される温室効果ガスとは

私たちがスーパーなどで購入する食べ物は、「①農業生産や包装プラスチックなどの生産」「②食品の輸送」「③原材料の加工」「④小売店での販売」という段階を経て、私たちの食卓に並んでいます。

この一連の流れはまとめて、「フードサプライチェーン」と呼ばれています。実は、このフードサプライチェーンのそれぞれの段階でも、たくさんの温室効果ガスが排出されています。

例えば、農林水産業由来のものだけでも世界の温室効果ガス排出量の約4分の1を占めるほどです(図表)。気候変動を食い止めるためには、クリーンエネルギーの利用などだけではなく、食べ物のあり方自体も見直す必要があるのです。

フードサプライチェーンは4つの段階から成り立っています。その中でも特に、「①農業生産や包装プラスチックなどの生産」の段階で温室効果ガス排出量全体の60〜70%程度が排出されます。

「②食品の輸送」「③原材料の加工」「④小売店での販売」では、それぞれ10〜15%程度が排出されていると考えられます(SMBC日興証券試算)。

このように、食べ物を食卓に届けるためには、たくさんの温室効果ガスが排出されています。

私たちがサステナブルな社会を目指していくためには、フードサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出を減らす努力をする必要があります。そこで期待されているのが、食品飲料メーカーの活躍です。

実際のところ、日本を代表する食品飲料メーカーのそれぞれが、自社だけでなくフードサプライチェーン全体での排出量を減らすための様々な取り組みをおこなっています。

それでは、生産から店頭に商品が並ぶまでの①と③の段階における食品飲料メーカーの代表的な取り組みを見ていきましょう。

「①農業生産や包装プラスチックなどの生産」における取り組み


突然ですが、乳牛や肉牛の「げっぷ」や「糞尿」が気候変動の原因のひとつである、と言われたら驚きませんか。牛が食べたえさを胃の中で消化するときに、たくさんのメタンガスが発生したり、糞や尿からもメタンや一酸化二窒素が排出されるんです。

ちなみにメタンガスや一酸化二窒素は二酸化炭素と同じく温室効果ガスのひとつであるため(なんと、メタンは、二酸化炭素と比べて約30倍、一酸化二窒素は約300倍もの温室効果があります)、牛が生活していく上での生理現象が気候変動にもつながっているのです。

この問題に取り組んでいるのが、パック入りの牛乳でおなじみの「 明治グループ 」です。

同社は、味の素と協力して、温室効果ガスが発生しにくいえさを使用しています。これにより削減されたGHG排出量を「J−クレジット」という制度を活用して、酪農家の収入アップにつなげるビジネスモデルを構築しました。

また、牛と環境に配慮した牛乳づくりという観点から、北海道網走郡津別町の農家の方々と連携して有機酪農に取り組んでいます。

有機酪農では、化学肥料などを使用せず、環境負荷低減に配慮して栽培されたえさを与え、ストレスの少ない環境で牛を飼育します。さらに牛の排泄物は、堆肥としてえさを栽培する農地へ還元されます。このように、牛と環境に配慮した循環型酪農を通じて環境負荷低減に取り組んでいます。

北海道網走郡津別町の酪農家と連携、有機飼料で育てられた牛
出所:明治ホールディングス
有機飼料で育てられた牛から作られた「明治オーガニック牛乳」
出所:明治ホールディングス

もうひとつ、生産段階での温室効果ガスの排出源として見落とせないのが、プラスチックなどを使ったパッケージの生産です。

多くのプラスチック製品は石油を原料としますが、石油を発掘し、船で運び、工場で精製するまでには大量の二酸化炭素が発生します。これは、たくさんのペットボトルを使う飲料メーカーにとって悩ましい問題です。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン 」はこれに対して、ペットボトルを軽量化して、使用するプラスチック素材の量を減らしています。

さらに素材を石油由来ではなくリサイクル素材などのサステナブル素材に変えることなどでも、プラスチックの使用を減らそうとしています。企業努力により環境と便利さの両方が守られようとしています。

100%リサイクルPETボトル
出所:コカ・コーラ ボトラーズジャパン

「③原材料の加工」における取り組み

最後に、原材料の加工について、関連する食品飲料メーカーの工場における温室効果ガス排出削減のための取り組みを見ていきましょう。

食品飲料メーカーによる温室効果ガスの排出のほとんどは、本社や事務所ではなく工場で起こっています。食品や飲料の加工や保存のために、加熱や冷却などで大きなエネルギーを消費するからです。

そう考えると、食品飲料メーカーがやるべきことは主に、「使うエネルギーをクリーンなものにする」と「エネルギー消費自体を少なくする」の2つになります。

そのうち、「エネルギー消費自体を少なくする」という取り組みをしているのが、アサヒビールを製造販売している「 アサヒグループホールディングス 」です。

例えば茨城にあるアサヒビール工場では、排水処理設備から発生するメタンガスを回収・燃焼して発電する実験をおこなっています。

これまではそのまま大気中に放出されていたメタンガスを回収して再利用することで、従来よりも省エネな運営をすることができると期待されています。

アサヒビール茨城工場におけるバイオガスを活用した燃料電池発電
左奥:工場排水処理設備、中央:バイオガス精製設備、右手前:SOFC(※)
※SOFC(Solid Oxide Fuel Cell):固体酸化物形燃料電池
出所:アサヒグループホールディングス
ビール工場排水由来のバイオガスを活用した燃料電池発電の仕組み
出所:アサヒグループホールディングス

ここまで、食品飲料メーカーによる、「フードサプライチェーンでの温室効果ガスの排出を減らす取り組み」を見てきました。

こうした取り組みは自社を取り巻くサプライチェーン、ひいては社会全体の脱炭素化に貢献するだけではありません。

企業にとっては、原材料費や光熱費、さらに将来、日本政府によって課されるかもしれない環境税などのコストを抑える効果が期待でき、経営の効率化につながることが考えられます。

また、私たち消費者の意識がより環境志向になりつつある中で、こうした企業は消費者からもより好意的に見られると考えられます。

消費者からの賛同を得ることで売上増になるといった好循環につながれば、サステナビリティに取り組む食品飲料メーカーは、ビジネス上でも今後益々有利になっていく企業となるのかもしれません。

環境税:環境保全を目的に課す税。具体的には、二酸化炭素の排出量に応じ、工場や企業、家庭などから幅広く負担を求めることにより、広く国民に対し温暖化対策の重要性についての認識を促し、排出量の削減を推し進めるもの。(参照:環境省ウェブサイト)

この連載では、環境問題などSDGsに纏わる最新動向を、毎回、ESGに取り組む企業の事例を取り上げながらご紹介しています。


著者 : SMBC日興証券 サステナブル・ソリューション部、 岡田 丈
引用元:日興フロッギー

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