つながりから得られる「手触り感」。シェアリングエコノミー協会・石山アンジュさんと考える、シェアで始まるお金の好循環
個人が全てのものを所有する時代から、必要な時に誰かと分かち合う「シェア」の時代へ。他者と共有することで個人の負担は削減し、一方で喜びは倍増する。そんな仕組みが次々に誕生する今、お金の存在はどんな可能性を作り出すのでしょうか。
社会活動家の石山アンジュさんは、シェアしあうことで得られる価値を伝える第一人者です。石山さんの著書『シェアライフ -新しい社会の新しい生き方-』を読むと、シェアによって増える「信頼」と「個々人のつながり」が、拡大・成長だけを是としてきた資本主義の問題を解きほぐす鍵であることがわかります。また新著『多拠点ライフ -分散する生き方-』では、石山さん自身も実践する多拠点分散型の暮らしについて詳しくまとめられています。
シェアする暮らしが新しいライフスタイルであるからこそ、石山さんはシェアリングエコノミー協会の代表として、社会的理解や法整備の呼びかけなど、政府との協働も積極的に行っています。今回、Money for Goodでは、石山さんの東京のご自宅であるシェアハウス「拡張家族Cift」にお邪魔して、シェアする暮らしの本質的価値とこれからの経済の可能性についてお聞きしました。
広がる概念と、問われる意識
-コロナ禍による生活様式の変化も含めて、近年シェアリングエコノミーの概念は大きく広まったように感じます。石山さんは現状をどう捉えていますか。
コロナ禍もあって、シェアリングエコノミーが二極化したと感じています。まず良い側面としては、多くの人が生活様式の見直しをする必要があると認識し、その受け皿としてシェアリングエコノミーも選択肢の一つだとして受け入れられていること。個人、そして企業からも注目されていると思います。
個人でいえば、自然災害や新型ウィルスなど、何が起こるかわからない、不確実性が高い社会を実感しているということでしょう。そのため、AがダメでもBがある、BもダメならCがあるという複数の選択肢をもつ意識が強まってきました。かつては別荘をもったり自由な生き方をすることはお金や時間に余裕のある方に限られていましたが、例えば、月額4万円で全国250箇所以上に住めるサービスなど、シェアリングエコノミーによって生活コストを下げながら、不確実性が高い社会でも豊かに生きていけることを提示できているんだと思います。
企業の場合は、環境問題への意識と持続可能な取り組みが生活者から求められるようになったことが大きいと思います。シェアリングエコノミーには単純化するならば、そもそも新しいものを作らず、捨てないで、そこに新たな付加価値を生み出して経済に戻すことができるという側面があり、それが経済的な新たな価値であることが理解されています。
二極化している影の方の部分で言えば、戦争が長引き、物価の高騰が止まらないほか、過去にない組織的な連続強盗など物騒なニュースも絶えません。それにより他人を簡単に信じないことや、もっとセキュリティを強めようといった傾向も出てきました。これはシェアリングエコノミーの根幹であるつながりと信頼を揺るがす可能性もありますし、そもそも人々の価値観にも影響が出てくるのではないかと危機感を持っています。
しかし実際には、シェアリングエコノミーの市場は成長していますし、共感の輪が広がっているのは確かです。お金の使い方や消費の在り方として、わたしたち一人ひとりが社会の出来事をどう捉えるべきか、その意識が問われている局面にあるんだと思います。
-石山さんご自身はシェアリングエコノミーを伝える役割と、さらに個人としても、シェアする生き方を体現されていますね。
「Cift」では子どもから大人まで約110 人が拡張家族としてコミュニティに所属して います。また実家では父がシェアハウスを経営しているので、生まれた時からずっとシェアハウスで暮らしていると言えます。
現在の活動を通して出会った人や、同じようなビジョンを持って活動している方々ともどんどん輪が広がっていますし、そういう意味では確かに、日常的にシェアリングエコノミーの広がりや、社会の価値観が変化していることを実感できる立場にいますね。
ただ一方で、マジョリティはそうじゃないんだ、と感じることも多いです。現在テレビの情報番組でコメンテーターを5本担当していることもあって、常に社会にアンテナを張り、俯瞰する機会が多いこともありますが、「この速度でやっていても変わらないかもしれない」という焦りや無力感を抱く ことがあるからです。
でもだからこそ、「Cift」のような拡張家族の暮らしや 、メディアに出て伝える仕事を通して、どんどん個人の意識や生き方にはたらきかけていくというベクトルを進めること。それと同時に、仕組みやルールなど構造の部分にはたらきかけていく活動の両方を大事にしたいと考えています。
誰も置いていかない役割をする
-シェアリングエコノミー協会では政策提言など政府へのロビイング活動もされているだけに、現実的な暮らしとの温度差も感じることもあるんですね。
そうですね。その度に、この温度差を無視したらいけない、と思いますし学ぶことも多いです。例えば大分の家では、集落 の多くが70〜80代。私がパソコンでリモートワークしていることが信じられないと言う人や、パソコンに触ったことない人もいます。
新しい概念だけを提示しても意味がないと思うので、そうした方々を置いていくことなく社会実装を進めること。これはシェアリングエコノミー協会を立ち上げた当初から大事にしている目標です。
-ご著書『シェアライフ』の中でも、個人の意思と、そして他者とのつながりにおける可能性の広がりを伝えていらっしゃいますよね。
分かり合えないはずがない、という自信だけは昔からあるんです。それは自分の実家がシェアハウスでしたので、知らない人同士が一緒にご飯を食べたり、家族のように暮らすなど、多様な環境で育った原体験も大きいと思います。正解は一つではない、世界にはいろんな背景の人が存在する、ということを実際に見ながら育ちました。
子どもの頃も、クラスの誰も置いていきたくない、と思うことが多かったですし、10代の頃から戦争の意味や平和の価値といったことも自分の中で大きなテーマでした。社会課題の多くは、異なる価値観の共存が課題だと思ってきましたし、背景が違うもの同士だからこそ、諦めずに対話を続けること、相手を分かろうとする行為自体が尊いものだ、と学んできたので、「分かりあうことを諦めない」は、自分の中でずっと大事にしている価値観です。
例えば、大分のおばあちゃんにITのことや便利なツールを伝えるには、どう話すのがいいかと考えたり、年上の世代が多い政治家に対するロビイングでも、カタカナを使わずにわかりやすく伝えること、あるいは、「そうか、これがあればもっと豊かな暮らしになるね」と共感してもらえるような伝え方はどんな言い方か、と考えてお伝えしています。そうした役割は自分の中にある意識であり、あまり苦にならずにできることだとは感じています。
お金と、お金以外のキャピタル(資本)も
-普段お買い物などお金を使う時は、どんなことを大事にされていますか。
やはり生産者さんとか作り手の顔が見えることを大事にしていますね。料理をすることが好きで、大人数に食事を作る機会も割とあるんですが、「食べチョク 」という生産者さんから野菜などを直接購入できるプラットフォームで買ったり、「メルカリ」でもお気に入りの農家さんがいて、大好きな沖縄の食材をよく買っています。あと、「TABETE」というシェアサービスは、まだおいしく食べられるのに賞味期限などの理由から正規ルートでは食品ロスになってしまう食材をレスキューするサービスです。シェアハウスでホームパーティをする時など、たくさん食材を使う時にはそうしたサービスを活用しますね。
シェアリングエコノミーの仕事をしていることもあって、ゼロから立ち上げようと頑張っている友人やつながりなど、そうしたところで優先的に買い物をしています。
-投資や寄付についてはどんな基準をお持ちですか。
積極的に投資や運用を行っているタイプではないんですが、でもだからこそ、創業者の生き方やブランドの思いに共感できたり、リスペクトできるかどうかを調べて判断軸にしています。
近年、投資や株式の世界もどんどん変わってきましたよね。特定の地域やコミュニティを応援するコミュニティ・ファンドみたいな取り組みであったり、資産運用も小口投資など気軽にできる選択肢が増えてきたと思います。クラウドファンディングも、投資や寄付のかたちとしてかなり身近なものになりました。これからも共感をベースにした選択肢が金融サービスの中に増えることを期待しています。
それと同時に、資産形成だけが生きる目的になってしまうことは危惧しています。仮に一生懸命1000万円を貯めたとしても、グローバル経済の中では不可抗力的にその価値が下がることもあるので、お金だけを豊かさの指標にするのは生きづらいと思うからです。
自分の人生の資本は何かを考えること。お金以外の資産・ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を複数持つことが、これからの豊かさを作るし、精神的な安心感につながっていくと考えています。シェアリングエコノミーが信頼とつながりを大切にしているように、これからの時代は個人もバランスよくソーシャルキャピタルを築きやすくなっていくでしょう。
あと寄付に関しては、自分にはできない領域の問題に取り組んでいる団体に寄付することが多いです。子どもの福祉を考える「認定NPO法人フローレンス」とか、若者の孤立や貧困を考える「認定NPO法人D×P」、あとはユニセフですね。ウクライナ侵攻が始まってからユニセフに寄付した金額だけで数十万円くらいになってると思います。
-シェアリングによって、社会にもっと良いお金の好循環ができていくと思われますか。
そうですね。例えば大分県で私が暮らしている地域のように、日常生活での物々交換や、信頼関係で価値の交換が成り立つコミュニティもありますが、資本主義はその対極にある社会ですよね。 シェアリングエコノミーは資本主義に含まれているものの、概念としてはそれらの中間に位置していると言えます。
かつてはお隣さんとだけやり取りしていた”お醤油の貸し借り”が、シェアリングエコノミーでは県外や海外の人とも貸し借りを可能にしました。同時に、物流や輸送、あるいは、誰がお醤油を必要として誰が貸し出せるのかを可視化することが可能になり、新しい付加価値が経済を動かしています。
そうした人と人のつながりや、行き過ぎた資本主義を是正するような「手触り感」を感じられる経済にすることが、これからの新しい可能性だと思います。
編集後記
理想的な社会像と現実を素直に言葉にする石山さんに、真面目なお人柄と、ある種の葛藤を感じて共感と敬意を覚えました。お邪魔したシェアハウスでは、パソコンでお仕事をする方や、キッチンでお料理をする方など、お住まいの方々が個々の時間軸で日常を営んでいることを垣間見ることもできました。
精神的にも物理的にも程よい距離感を保ちながら、信頼と共感をベースに、より良い明日を共に作る。そう考えると、シェアハウスに住んでなくても同じだ、と気付かされます。お隣やご近所、あるいは離れて暮らす家族や友人であっても、つながりを拡張した大切な関係性があるからです。シェアによって増えるであろうさまざまなメリットは、みんなに等しくもたらされることが実感できました。
取材・文:やなぎさわまどか
写真:落合直哉
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
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