お金は「好き」を継続させる投票行動。自分らしくいるためにハヤカワ五味さんがしていること
気候変動やエネルギー問題、少子高齢化にジェンダー平等など、現代社会はさまざまな課題と共存しています。自分自身を大切にしながらも、環境を含めた社会全体が健全であるためには、普段からどんなことに意識するのがいいのでしょうか。
今回は、株式会社ユーグレナでブランドマネージャーとして活躍するハヤカワ五味さんに、キャリアやライフスタイル、将来に向けた経済観念という点での「自分らしい選択」の重要性についてお伺いしました。
「お金」と「時間」、メリハリのある関係性
Q. 現在のご活動についてお聞かせください。ランジェリーブランド「feast(フィースト)」などアパレル業界でキャリアをスタートされたハヤカワさんが、現在、株式会社ユーグレナにご所属されている経緯はどんな背景があるのでしょうか。
わたし自身の活動は10年以上、商品を販売するという主にEC事業にフォーカスしてきました。
ユーグレナは以前からCEOの永田 暁彦さんと知り合いだったということもありますが、それ以前に、株式会社ILLUMINATEとしてヘルスケアを取り扱うにあたり、どのようにブランドや商品を展開することが最もお客様のためになるのか、と考えてユーグレナへの参画を決めました。
ヘルスケア事業ではアパレルと違い、お客様が直接体に取り入れたり肌に塗ったりするものなので、より確かなガバナンスや法令遵守を考慮した際、知見のある組織と一緒に、わたし自身も学ばせてもらいたいと思って至った選択です。
Q.今回はハヤカワさんに、キャリアの形成やライフスタイル、経済的な視点からお話を伺いたいのですが、お金のつかい方に関して、どういった価値観をお持ちですか。
お金については、ある程度メリハリをつけてつかう ことが大事だと思っています。わたしたちみんながもっている分かりやすい資産といえば、「お金」と「時間」ですよね。時間をお金で買えることもあるし、時間によってお金を手に入れることもできる。「今必要なのはどっちだろう」と考えて、より適切に選択できることが大事だと思います。
大学に入ってすぐ起業をして、最初の1〜2年は身銭を切ることも多く、社会性まで考えながらお金をつかうことは正直難しい状況でした。しかしその後、余力が出てきた時に、5年先が楽しくなるようなお金のつかい方や、先行投資といったことも考えられるようになりました。
例えば当時、才能があるのに生活が大変そうなクリエイター数人に、業務のマネジメントができる人材をつけていました。クリエーターたちの業務運営をサポートしてもらい、その費用はわたしからマネージャーさんにお支払いをしていました。
彼らの作品を買うといった直接的な支援の仕方もありますが、ビジネス的に「ランウェイが伸びる」と言われるような、彼らのクリエイター人生が伸ばせるようにしたかったんです。
特に駆け出しのクリエイターだと低めの金額を提示しがちですが、わたしから見ると「本来そんな価値じゃないはず」と感じることも少なくありませんでした。そこで金額交渉におけるコミュニケーションの仕方をマネージャーに伝えて、実際、絵の金額が1.5〜2倍になった人もいます。
なぜそんなことをしていたかといえば、わたし自身が才能あるクリエイターたちを尊敬している、ということが大きかったですね。大学柄クリエイターの友達は多いのですが、「なんでこんな低い金額で仕事を受けているんだろう?」とか、確定申告してないという人に対して「還付金がもらえるのになんでしないの?」と思ったりしていました。彼らに活動を続けて欲しいと思うからこそ感じた疑問だったと思います。
経験から学んだ「お金=投票」の意味
Q.事業を始めたのが早かったハヤカワさんだからこそ感じた疑問、ということでしょうか。
それもあるかもしれませんが、わたし自身もかつては「お金を稼ぐこと=悪いこと」と思っていたことがあるんです。美術予備校に通っている時もそうでしたが、お金よりももっと崇高なもののために芸術をしている、という価値観をもつクリエイターは少なくないと思います。
しかし、利益を出すことは何も悪いことじゃない、と気づいた出来事がありました。以前、オリジナルプリントのタイツをつくって販売していたことがあるんですが、当時、工場にオーダーする最小ロットは30足でした。1足1,500円くらいだったので、30足で45,000円。当時のわたしには元手がなかったので、受注生産として30足45,000円分の注文を受けてから注文していたんです。でも少し遅れて「やっぱり欲しい」と言う人が出てくることもあるんですね。そういうことを予想して少し多めにつくっておけばいいんですけど、そのためには余剰金が必要になってくるわけです。
お客様の立場でいえば、次の30人分の受注を数ヶ月間待つよりも、仮に数百円高くなったとしてもすぐに買えた方が良いわけで、利益を出すということはお客様のためになることだと感じました。利益は何も悪いことじゃない、むしろ良いこと、事業をサステナブルなものにするためには必要なことだと理解できました。
今はわたし自身、お金は投票だと思っていて、お客様は、商品と価格を適切に評価しているから払ってくださっている、と感じています。わたしがお金を払う側になる時も同じで、お金を払うことでフェアになれる。また、お金は時間の代替品にもなると思っています。
時間って、わたしたちが共通してもっている、絶対的な資産ですよね。他の何とも替えが利かず、でも確実に目減りしていくし、みんな生まれた瞬間からもっているけど、誰かと交換のやり取りはできない大切な資産です。
人がはたらくときは時間をつかうので、時間をお金に換えることがはたらくこと、と言うこともできる。そう考えると、いかに時間が貴重なものかもわかるはずです。お小遣いとして1,000円をもらうときに「少ない」と感じる中高生もいるかもしれませんが、でもそれは誰かがはたらいて時間を費やしたものだということ。お金はそうやって循環しているんだ、と構造的に捉えられたら、お金が投票であることを実感できると思います。お金を汚いものだとは思ってほしくないですね。
Q.構造的に捉える、ということが重要そうですね。
たまにわたしの書いたnoteをツイッターで紹介してくれる時に「有料部分は読んでないけど」とわざわざ前置きしながらリツイートされることもあるんですが、ぜひ有料記事も買って読んで欲しいなって思っていて(笑)つまり、誰かの活動を支えているのはその人の売上や利益なんです。でもその事実は案外、知られてないように感じています。
わたし自身も好きなイラストレーターさんの作品を買うし、継続して欲しいマンガ、アニメ、ゲームなどにはお金をつかうようにしています。そうしないと万が一それが継続できないから終わってしまうことになった時に、「続けて欲しかった」なんて言う権利もない気がするんです。
もしも好きなアーティストがいたら、いいね!するだけじゃなくて作品を買う。お金がなかったら500円のステッカーだって良いし、本当にない時はリツイートするだけの時もあるかもしれないけど、お金は投票なので、少なくともせめて1票入れることに意味があると思います。
お金がないと継続できない、どんな意味のある活動だって続けられない、という認識ができたら、社会課題にも投票できると思います。この活動は続いて欲しいからグッズを買おう、募金をしよう、といった行動が当たり前のことになるように、学校教育などでもぜひ伝えて欲しいです。
Q.なるほど、素敵な考えですね!ちなみにハヤカワさんが推したい企業やブランドはありますか?
企業でいえば「LUSH」の一貫した取り組みはやっぱりすごいな、と思います。わたしが中高生の頃から動物実験をしていないことが表記されていましたが、その他にもプラスチック削減とか環境配慮、LGBTQといった社会課題への意識が一貫してますよね。
SDGsをうたう企業がたくさんある中で、LUSHは別に何も言ってないけど、でもずっと継続してきたからこそ、誰がみても地球のためにやってる会社だとわかるじゃないですか。
個人的にもLUSHのシャンプーバーを買って使ってるんですけど、それまでサウナに行く時などに持ち運び用のボトルにシャンプー移し替えても、3回くらいで使い切っちゃうと思っていたんです。でもシャンプーバーは液体じゃないので回数当たりの使用量が少なくて、長く使えるし、プラスチック容器もない。使用量は多いのに運搬コストが下がるので、環境負荷も少なくできています。表向きにはそこまで環境配慮をうたっているわけでもないのに、この徹底っぷりはブランドとしてとても重要なことだと思いました。見習うべきことが多くて、プレイヤーの先輩として尊敬しています。
あえて自分の不得意な場に行く理由
Q.最近はお金のつかい方として、どんなことを意識されていますか。
「体験」につかうことですね。わたしだけでなく、周りをみても、体験にお金をつかうことが増えている気がします。具体的にはキムチ作り体験に行くとか、日本三大花火大会を見る計画をするなど。やったことないことを片っ端からすることは、お金をつかう時の判断基準の一つにしています。
というのも、普段から自分がつくっている商品をブランド価値として提供しているので、自分自身にも何か体験をインプットしておかないと、感性が枯れやすくなったり、アイディアが出てこなくなるような気がするからです。提供商品のパッケージの手触りや、ケースを開ける時の体験、メールでのコミュニケーションなど、良いホテルで出会ったホテルマンさんの対応や、初めての体験をした感動から発見できることがたくさんあります。
今20代後半になり、20代前半の時に比べると、深く考えずに同じものを選びがちになる傾向を感じました。例えばある街の花火大会に行ってすごく快適に楽しんだら、じゃあ来年も、また次の年も、とずっと同じ花火大会だけを見かねないと思うんですよ。普段の生活でも、心地いいコミュニティで特定の10人くらいとしか関わらないとか、何も意識しないでいると簡単に起きがちです。
仕事においても、現在のお客様とコミュニケーションを取ることはもちろんですが、中長期的にはお客様の周りの人のことも考えていく必要があります。そうしないと、お客様がうちの商品を使っている時に、周りの人からどんな言葉をもらうのか、といった想像ができなくなってしまうんです。
だからなるべく、自分の身近にはいないタイプの人と話してみることも意識しています。趣味でしているコスプレなど、仕事とは違う場で会う人ともコミュニケーションしたり、あまり同世代が行かないようなバーに行ってみたり。そうした体験を通じて得るものは大きいので、自分にとって不得意だったり初心者になる場所にも、なるべく意識的に行くようにしています。
良いパフォーマンスのために先行投資
あと、仕事で使うツールや料理の道具など、長く使う道具類は、先行投資した方が費用対効果が高くなると考えています。少し前に掃除機を買い換えたんですが、安くて重かった前の掃除機に比べて、片手で使いやすい掃除機だと、手に取りやすくなり、掃除機をかけるまでのコストが下がった気がしました。
健康に関することも同じことが言えると思います。オフィスチェアとして有名なアーロンチェアを中古で買い、同時期にリュックも替えたら、それまで毎月行っていた整体に行く必要がなくなるくらい肩こりがなくなりました。眠りの質を高める快適な寝具とかもそうですし、買って使うことで自分が快適になって、結果的に勉強や作業が捗るなど、他の効果にもつながっていきますよね。
わたしは基本的には倹約家ですが、自分を良いコンディションに整えてくれるものや時短になるもの、特に日々の暮らしの動線上よく使うものにはお金を掛けていると思います。中長期的にみれば年収を上げることにつながるので、こうしたことは無駄使いではないと考える方がいいと思います。
自分の将来のために、「攻めた」お金のつかい方も
Q.現在ユーグレナの所属になられて、企業の中にいることで新たに感じた「お金のつかい方」に関する考えなどがあれば教えていただけますか。
自分で事業をしていると業務範囲が広いので、わからないことにも取り組む必要がありますが、組織化された中にいると、自分の業務だけをしながら何年もはたらくことができると思いました。その場合、他の勉強もする癖をつけておくとか、少なくとも勉強に取り組める環境にしておくことが重要だと思います。
個人的には以前、簿記を学んで試験も受けたことがあって、次はファイナンシャルプランナーの勉強とかも実践的で楽しそうだなと思っています。資格試験って楽しいし、ためになりますよね。仕事ではマネジメント側にいる方が長いこともあって、普段あまり褒めてもらう機会も少ないので、合格おめでとうございますと証明されることも素直に嬉しいです(笑)
Q. 将来的に考えている、お金のつかい方があったら教えてください。
周りの友達をみていると、マンションのローンを組む人なども増えてきました。自分自身もいつか子どもを産むときのために蓄えることも一つかな、と考えることがありますが、一方で、年齢的にまだもう少し攻めたつかい方をしてもいい気もしています。例えば、会社を立ち上げるとか事業を始める人など、いざ助けが必要となったら動ける自分でいたいと思うんです。自分自身が助けてもらってきたので、「今100万円あれば助かる」という状況があることもよくわかります。
またビジネス的にも取り組んでみたい領域があって、例えば「この100万円でテストして欲しい」といった事業検証につかうことも出てくるかもしれません。あとは自分自身のインプットも、大学院なのか、何かの講座なのか、今のうちに時間とお金をつかいたいですね。
これまでわりとカツカツでやってきたことも多かったので、少し余裕が出た今、改めて、自分自身がどんなことにお金をつかいたいんだっけ、と考えるフェーズにいると感じています。
編集後記
よどみのない言葉で事業やお金に対する思いを語るハヤカワさんに、クールさに内包されたアツさを感じました。誰かの応援や課金という選択を迷いなくできるのは、自ら経済を回してきた矜持に支えられていることでもあり、影響を受けたわたしは早速、インタビューの帰り道に知人のクラウドファンディングに参加しました。
あと印象的だったのは、「お金は体験につかう」という回答が光の如く早かったこと。まさに秒での返しを受け止めながら、主体的な選択の重要性を本当に実感されているんだと痛感しました。お金が叶えられる「役割」を理解し、その可能性を「信頼」すること。自分のため、そして周りのための良いお金の循環は、日常の小さな選択から始まるような気がしています。
取材・文:やなぎさわまどか
写真:大浦タケシ
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
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