ESG投資を身近なものへ。SMBC日興証券の「Money for Good」とは
多くの企業がこれからの経営に欠かせない要素として重要視する『ESG』。Environment(環境)Social(社会)Governance(ガバナンス)の頭文字を取った略語だ。従来の財務情報だけでなく、ESGも考慮した投資は、ESG投資と呼ばれて注目を集めている。しかし、企業担当者や機関投資家にとって当たり前のこの言葉、一般にはなかなか普及していない。
正しいESG投資は、地球にも社会にも“優しい”お金の循環を生み出すことができる。その普及の一助として、SMBC日興証券が取り組むプロジェクトが『Money for Good』だ。今回は、ESG投資やサステナビリティ経営の専門家である夫馬賢治氏とNikko Open Innovation Labで『Money for Good』に携わる伊藤直子氏の話から、なぜ今、ESGが注目されているのか、そして、ESG投資を普及させるには何が必要なのかを読み解いた。
10年遅れていた日本のESG投資が花開こうとしている
2006年4月、当時の国連事務総長だったコフィー・アナン氏は、ESGに関する視点を投資プロセスに取り入れることを求めた、「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱した。これをきっかけに、世界的にESG投資は活発となる。しかし、日本で大きく動いたのは2017年のこと。夫馬氏は「日本のESG投資は世界から10年遅れている」と言い続けてきた。
夫馬賢治(ふま・けんじ)氏/ニューラル 代表取締役CEO、信州大学特任教授。2013年ニューラル設立。東証プライム上場企業や大手金融機関などに対して、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーを行う。農林水産省や環境省、厚生労働省の委員を務める他、地方自治体の委員、国際NGO理事なども務める。Beyond Sustainability 2022アドバイザリーボード。2022年9月『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』(PHP出版)を上梓。
「公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2017年度からESG指数に基づいた株式投資を行っています。ここから、日本のESG投資は大きく変わりました。世界から10年以上遅れて波が来たのです。それから5年、2022年の今は、より多くの機関投資家がESG投資に参入し、まさに花開こうとしている状況だと感じています」(夫馬氏)
実は、世界的に見てもESG投資がさらに加速しつつあるという。その理由のひとつがコロナ禍だ。
「新型コロナウイルスは、世界中で増えつつある動物媒介感染症と考えられています。そして動物媒介感染症の増加要因のひとつに、気候変動により動物の生態系や生息地域が変化していることが挙げられています。これにより、誰もが気候変動を止めなくてはいけないと肌感覚で理解しました。そして、コロナ禍は人権問題も浮き彫りにしています。非常時に最もダメージを受けるのは、社会的に弱い立場にいる人々。弱者を救いながら経済を成長させる必要性が意識されて、人権というテーマに注目が集まりました。こういった理由から、コロナ禍でESG投資が加速していったのです」(夫馬氏)
活発になるESG投資が個人に広がらない理由とは
企業や機関投資家の間では、重要なテーマとして認識されていたESG投資。しかし、一般の人での浸透はなかなか進まなかったという。この日本における状況をSMBC日興証券の伊藤氏は、こう振り返る。
伊藤直子(いとう・なおこ)氏/SMBC日興証券 Nikko Open Innovation Lab。外資系・日系大手証券会社で役員秘書を経験し、2011年11月にSMBC日興証券に入社、株式調査部に所属。2015年3月に女性活躍推進に関する投資レポートを担当したことがESG投資を意識するきっかけとなった。また同時に自身のキャリアについても考えるきっかけとなり、2020年10月に現職に異動。ESG/SDGsをテーマに新規事業創出に取り組み、社会を良くするお金の循環をつくりたいとの思いから「Money for Good」を立ち上げた。
「私は2011年~20年にかけて株式調査部に所属していました。企業のIR(株主や投資家に向けて経営状態や財務状況、業績、今後の見通しなどを開示する行為)担当者とやり取りをすることが多かったのですが、みなさん、ESGをどのように開示するか苦心されていて、問題意識も持っていました。私が新規事業を創出する部署であるNikko Open Innovation Labに異動した2020年10月、当時すでに調査部や機関投資家の間では、ESGが非常に高い関心事になりつつありました」(伊藤氏)
これが一般の人になると、ESGという言葉とはかなり縁遠くなる。SMBC日興証券が2021年に取ったアンケートでは、SDGsの認知率は全世代で7割を超えたが、ESGの認知率は全体で35%程度だったという。
(注)2021年10月インターネットアンケートを実施(20~69歳男女1,044人)。提供:SMBC日興証券
「ESGは投資家目線の言葉で、一般にはまだまだ遠い存在。日本では依然として投資に対するハードルが高いこともESG投資が普及しない理由の一つにあると思います。また、ESG投資という言葉を知っていてもそもそも何に投資したら良いのか分からないといった悩みや、情報が少ないといった課題も耳にします」(伊藤氏)
一方で、先のアンケートでは、20〜30代はESG投資への関心が比較的高いことも分かった。20代に至っては、約4割程度の関心度があったという。伊藤氏は「あくまで私見」と断りながら「環境問題を自分ごと化して、受け入れやすい世代」と語る。
(注)2021年10月インターネットアンケートを実施(20~69歳男女1,044人)。提供:SMBC日興証券
「20代前半は多感な時期に東日本大震災を経験し、ボランティアなどが身近な世代です。他の世代と比べて社会貢献への意識が高い傾向にあるといえるでしょう。加えて、資産形成への感心も高く、その文脈でESG投資を知るきっかけになっているようです」(伊藤氏)
この意見には夫馬氏も賛同する。
「今の20〜30代は、老後資金など自分の資産形成に対して危機感を持っており、投資を勉強している割合が多い。しかも、ESG投資という新しい分野にも興味を持っています。」(夫馬氏)
若い世代はESG投資に興味を持っているが、問題はその情報自体が少ないことだ。特に、ESGがバズワード化することで、ESGウォッシュ(ESGに配慮しているように見せかけること)が疑われる企業も出始めている。「証券会社は、社会貢献に対してリターンが生まれるような、良いお金の循環となる投資をサポートする使命があります」と伊藤氏。そのために始めた新しい取り組みが『Money for Good』だ。
フェアトレードのチョコレートを買うような感覚でのESG投資を促す
伊藤氏は、「20〜30代は社会課題に対する意識が高く、自分なりにテーマを持っている」と指摘する。実際、フェアトレードのチョコレートを選ぶ、クラウドファンディングに参加する、寄付するといったことは珍しい行動ではない。お金を払うこと=自分自身の価値表明につながっているのだ。
「一方、株式投資に対しては距離が遠いのも事実です。若い世代は資産形成への興味が旺盛で、SNSなどで情報収集も活発です。ただ、最初の一歩がなかなか踏み出せない。なにより、株といった途端、単なるお金儲けと捉えられることが多い。本来、株式は企業を応援する手段です。ESGに積極的な企業を応援するために、フェアトレードのチョコレートを一つ買うような感覚で株を買う。そのために十分な情報や手段を提供するために『Money for Good』を立ち上げました」(伊藤氏)
最近では、クレジットカード利用や買い物で貯めたポイントをつかい株式購入するポイント投資や100円から株式投資できる少額投資も活発になっている。伊藤氏は「少ない金額でもESGに積極的な企業を応援することで、生活者目線で、より良い社会につながるお金の流れを作りたい」と意気込む。
「まずは、利用者への情報発信がファーストステップ。企業のESG経営の具体例やESGに配慮した製品を紹介したり、社会課題を解決しようとしている起業家を知ってもらったりなど、ESGへの共感を目指します。また、企業内でESGに携わる方々の頑張りに光を当てることで、その方たちの活力にもなればいいなと思っています」(伊藤氏)
セカンドステップは、少額投資やポイント投資によって、自分でできる範囲で実際に投資できるシステムを整える。ここでは、株式だけでなく、クラウドファンディングや寄付なども含め、垣根を越えたお金の流れを考えているという。
「そしてサードステップは、コミュニティの形成です。一人ひとりの力は小さくても、みんなが集まるとより大きなインパクトが生まれます。志を同じくする仲間からの情報によって自分ごと化にもつながるでしょう。一人ひとりの小さな優しさが大きな優しさにつながって、みんなが社会に貢献できていることを意識できるコミュニティを目指していきたいと思っています」(伊藤氏)
夫馬氏は「ESG投資では、個人投資家の存在が重視されている」と指摘する。イギリスを始めとしたヨーロッパ諸国でも、政府や業界団体がESGを理解してもらうために力を入れている。
「ESG投資は、まず機関投資家、いわゆるプロが参入した手法でした。それ故、一般の人は情報を入手することさえ難しかった。しかし、より広く周知して普及させるには、個人を動かす必要があります。『Money for Good』は、まさにそこにトライするアクションです。個人のみなさんは、自分ひとりがESG投資をしたところで何もかわらない、100円や200円の投資で世の中が良くなるはずがない、などと思っているかもしれません。しかし、みなさんが束になれば、凄い力になる。そもそも、GPIFが運用する190兆円超のお金も、もとは個々人が支払った年金保険料です。そう考えると、少し勇気づけられませんか」(夫馬氏)
『Money for Good』で創り出すより良い社会につながるお金の循環
夫馬氏は、「環境学者の多くは、環境破壊や気候変動といった地球規模の課題を解決するソリューションはひとつしかない、と言っています。それは民間の金融市場のお金が正しい方向に向かうことです」と続ける。
「民間の金融市場のお金が正しい方向に向かい、適切なイノベーションを起こすことができれば、我々が危惧していた状態から脱することができる。それが、科学者たちの意見です。個人のお金も含めてESG投資が加速をすれば、希望が見出せる。みんなで動いていくことが求められています」(夫馬さん)
その一助となる『Money for Good』。伊藤氏は、「投資を単なるお金儲けではなく、社会を良くするお金の循環のツールだという認識を持っていただけるきっかけにしたい」と語る。そして、夫馬氏が提案する、環境や社会への影響を考慮することで利益を増やす「ニュー資本主義」に触れて、思いの丈を述べた。
「夫馬さんが提案されている『ニュー資本主義』は世の中の大きな潮流で、経営や投資の判断基準が従来から大きく変化し、ESGの視点は不可欠になっています。社会のトレンドを踏まえつつ、かつ、自分の価値観にフィットする企業を見つけて、応援するつもりで投資を楽しんでもらえる手助けをしたいと思います」(伊藤氏)
「ESGは企業や金融機関という遠い世界の話で、自分の生活には関係ないと思っているなら、それは間違いです。私たちは生活のなかで、さまざまな企業のサービスや製品を購入しており、その行動が企業や金融機関を動かしています。個人投資も同じで、ESGを考慮した投資行動は、個人がESGの観点で企業や金融機関を動かしているということ。一人ひとりの小さな応援が、集団となって大きなうねりへとつながり社会が動く。そういった未来をワクワクしながらつくっていく第一歩が、ESG投資だと捉えればいいのではないでしょうか」(夫馬氏)
ESGという言葉を聞くと、堅苦しく感じるかもしれない。しかし、猛暑やゲリラ豪雨といった異常気象、世界中で進む断絶による差別や人権問題、これらは、暗い未来を想像させる日常における危機で、誰もが身近に感じていることだろう。そんな危機を乗り越え、明るい未来を創り出すためにも生活者目線で、よりよいお金の流れを作ることが求められている。『Money for Good』は、そのきっかけとなる第一歩になるのかもしれない。
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