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人生を変える口紅との出会いが、世界も変えるかもしれない。SHIINA organic 露木しいなさんが、ものづくりにこだわる理由

環境にも、人にも優しいコスメブランド「SHIINA organic」。クラウドファンディングを経て、2023年11月からECサイトで口紅の発売を開始しました。
 
ブランドを手がけるのは、大学を休学して環境活動家として活躍している、露木しいなさんです。
 
妹が化粧品で肌荒れしたことをきっかけに、15歳の時から7年かけて、敏感肌にも使えて環境にも配慮された口紅を開発したといいます。
 
100%自然由来の原料で作ることが難しいといわれる口紅の開発をやり抜いた露木さん。ものづくりを通じて伝えたい考え方や思いについて、お話を聞きました。

露木しいなさんのプロフィール
2001年横浜生まれ、中華街育ち。「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で高校3年間を過ごし、卒業。COP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、COP25 in Spainに参加。肌が弱かった妹のためにSHIINA organicを立ち上げる。2019年9月、慶應義塾大学に入学。現在は、環境講演を全国の小中高学校に行うため、休学中。220校3万人以上にお話を届けた。


妹の肌荒れと、環境問題。両方にアプローチする口紅作り

-妹さんが安心して使える化粧品を作りたい、という思いから口紅の開発を始めたそうですが、最初はどのようなことからスタートしたのでしょうか。

私は、高校時代をインドネシアのバリ島にある、インターナショナルスクール「グリーンスクール バリ(以下、グリーンスクール)」で過ごしました。

当時は、「インディペンデントスタディ」という、自分で授業を作るというプログラムがあり、学校の授業では学べないことを探求する枠を、自分で作ることができました。私は、化粧品による妹の肌荒れを解決したいと思っていたことに加え、環境問題を解決するような取組をしたいとも考えていたので、インディペンデントスタディではそれらを掛け合わせて肌にも環境にも優しい口紅の研究開発をやることにしたんです。当時、生徒は100人ほどいたのですが、そのうちこの制度で授業を作った人は私を含めて2人くらいでしたね。

まずは、手作り化粧品の本を買いました。本にあるレシピ通りに作ろうとしたのですが、日本のレシピなので、バリ島にない原料もあるんですよ。たとえば、バリ島にはココナッツオイルは豊富にありますが、椿油のような原料はありません。そういうものを、代替品をうまく見つけながら、作っていきました。作った口紅の質感が違ったら、少しオイルを増やしてみたり、色が思うように発色しなかったら、着色の原料を増やしてみるといった調節をして、より良いものを研究していました。
 
当時は大変という意識はあまりありませんでしたね。売上などの目標もありませんし、作ったものを改善して、また試して・・・というプロセスを楽しんでいました。

-グリーンスクールは、「世界一エコな学校」といわれていますよね。環境に対する意識が高まったのは、学校での経験が大きかったのでしょうか。

グリーンスクールでは、環境課題を授業の中で学ぶだけでなく、行動するところまでやります。たとえば、海洋プラゴミに課題を感じているなら、海に行ってゴミ拾いをする、といったことです。しかし、ゴミ拾いをしただけでは、根本解決にはならないことに生徒は気づくんですよ。じゃあ次は、お店にレジ袋をビニールから紙に変えてもらうよう訴えかけるといったふうに、活動が広がっていくんです。

日々そういう勉強のしかたをしていたので、毎日の積み重ねによって環境問題の深刻さを身近に感じて、自然に行動をするようになっていきました。それが、日本に帰ってきてからも活動を続ける原点になっています。

環境に優しい「以外」の価値で選ばれることを目指す

-口紅を作るということは、妹さんの肌荒れを解決したいという身近な課題と、環境問題を解決するという大きな課題、両方に繋がっているのですね。日本に帰ってきてから、口紅の研究を続けて販売するところまで視野に入れていたのでしょうか?

実は、そんなつもりは全くありませんでした。
 
日本での販売を考えるにいたったきっかけは、口紅作りのワークショップをやったことです。口紅に使われている原料が、どこでどういうふうに作られているかということや、肌への影響などを知ってもらって、コスメを通じて環境問題についても考えてもらう内容でした。
 
しかし、途中でコロナ禍に入ってしまい、対面でワークショップができなくなってしまったんです。そこで、なにかの形で活動を続けたいと考えて、口紅のコスメキットを作りました。
 
コスメキットの販売をする中で、私の活動をこの形で広めていくのは限界があるなと感じました。コスメキットは作るのが大変ですし、口紅だけでブランドを広めるのも難しいです。完成した商品を作った方が、より多くの人に手にとってもらいやすいし、プレゼントもしやすいので、ものと一緒に思想も広まりやすいのではないかと思ったんです。それが、完成品の口紅を作って売るという、今の事業に繋がっています。

-手に取りやすい完成品の形であれば、多くの人に使ってもらうことができそうですよね。多くの人に手に取ってもらうために、意識していることはありますか。

環境に良いかどうかという観点を抜きにして、シンプルに「買いたい」と思ってもらえるものを作ることです。
 
環境に優しいことって、その製品が機能的・デザイン的に優れているかなどということとは関係のない部分です。環境に良いから買うという動機って、結局チャリティーになってしまうのではないでしょうか。それだと広まって行かないと思うんです。
 
SHIINA organicは、「環境活動家である露木しいな」のブランドであるということが価値になっている部分も大きいと思うので、本質的に提供できる価値がどこにあるのかという点は、深掘りしていく必要を感じています。
 
販売を開始してから、手応えのある部分は出てきています。たとえば、口紅を何度もリピートしてくださっているお客様がいらっしゃるので、リピートの理由を何人かに伺ったことがあります。するとみなさま、必ず「唇が荒れないから」とおっしゃるんです。
 
唇って荒れやすいので、合う口紅になかなか巡り会えない方が多いようです。いろんなものを試して、どれも合わないという方もいらっしゃいます。そういう方は、口紅を塗ること自体を諦めてしまう。口紅が塗れずに10年とか20年経過してしまっている方って、実は世の中にたくさんいらっしゃるんです。
 
口紅って、塗ると顔が本当に明るく見えますよね。これまで、肌荒れなどが原因で、一度も「口紅を塗って華やいだ自分」に出会えてこなかった方々からは、「やっと塗れる口紅を見つけた」とおっしゃっていただいています。その方にとって唯一塗れる口紅、というのは、価格が高くても購入したいと思える商品だと思うんです。

そういう方が多いということは、口紅を販売し始めてから知ったことでした。SHIINA organicを通じてリップメイクが楽しめるようになった方がいるということは、SHIINA organicがその方の人生を変えているということでもあります。ものづくりにこだわり、誰かの人生を変えるほどの製品を作り続け、その製品が広まっていくことが理想です。

SHIINA organicの口紅

-妹さんのために作ったものが、他の方にとっての価値にもなり、ものとともに思いも広がっていくのかもしれませんね。環境問題に対する思いを製品を通じて知ってもらうために、今後どのようなことをしていきたいですか。

口紅だけではない製品も開発していきたいです。先日、インスタグラムでSHIINA organicでどういう化粧品が欲しいかという投票をしてみました。その中だと日焼け止めが一番多かったです。それ以外のものも開発を始めていて、ひとまずリップクリームは次に出すことが決まっています。洗濯用の洗剤など、メイクにとどまらず色々なアイテムが欲しいという声もあります。
 
一方で、さまざまなものをすべて一気に出そうとすると、納得するようなものを作ることができません。先日開催した1周年記念のイベントで、もともと9月ごろ発売予定だったリップクリームについて、納得いくものができていないのでローンチがもう少し先になるということをお伝えしたんです。集まってくださった方々は、「一生待つので焦らなくて大丈夫です」と言ってくださいました。いいものを作るというところにこだわってさえいれば、買ってくれる人は必ずいる。それを信じて、納得するものができるまで突き詰めるというやり方にこだわりたいです。今後は自然由来で作ることが難しいアイテムの開発にも挑戦したいと思っています。

同じ1,000万円なら、3人からではなく1,500人から集めたい

-ものづくりをとても大切にされている露木さん。お金を使う時に大事にしているポイントを教えてください。

まず、普段はものを買わないようにしています。たとえば、基本的に服は、必要になったら 友人などからいらない服をもらうようにしています。いらない服を持っている人って、本当に多いんですよ。服が必要な時は、服のセンスが素敵だと思う友人に「着ていない服、あったらちょうだい!絶対大切に使うから!」と連絡します。すると、「捨てようか迷っていたのよ」などと言って、喜んでくれるんですよ。洋服のついでにジュエリーももらったりすることもあります。
 
ものを買う時は、お店に行って中古品などで一点ものを見つけるか、本当に応援したいと思う作り手さんのものを買うようにしています。2ヶ月前(2024年5月)くらいに買ったのは、サステナブルなブランドの、認証付きオーガニックコットンの服です。また、オンラインで買う時には、その企業のサイトで購入するようにしています。そのほうが販売している企業さんに、利益が残るからです。

-露木さんは、たくさんお金を稼ぐことではなく、何をやるかを大切にされていらっしゃいますよね。露木さんにとって、お金とはどういうものか教えてください。

お金は大きな力を持っていると思います。お金があれば、もう少し早く新しい商品を開発することができると思うので、そういう意味ではもっとお金があれば良いなと感じることもあります。お金は、実現したいことに対して、できることの選択肢を広げてくれるものだと思っています。

-クラウドファンディングを使って、1,500人以上から1,000万円超の資金を集められたこともありましたよね。

実は、数人の方から投資していただくということも考えていました。でも、あえてクラウドファンディングを選んだのは、色々な人に応援してもらいたいという気持ちがあったからです。同じ1,000万円を集めるなら、3人から集めるよりは、1,500人から集めたいんです。
 
お金を支援してくださった方から、「支援をさせてくれてありがとうございます」という言葉をいただいたことがあります。そう言ってくださったのは、環境のためや社会のために行動したくても、できない事情のある方でした。日々自分のやることで忙しかったりすると時間的にも難しいし、何をしたら良いかわからないこともありますよね。私がクラウドファンディングでお金を募ることが、そうした方々が行動する場をつくることにもなっているのだと、支援してくださった方の声を聞いて思うようになりました。
 
私がものづくりをする意味って、そういうところにもあるのかもしれません。私のやっていることに対して、いいなと思ってくれる方がお金を出してくださって、思想が世の中に広がっていくことが、世の中が少しずつ良い方向に変わる手助けになっていれば良いなと思います。

-読者の方に、どういうふうに環境問題と関わって欲しいと思いますか。

ものを買うことは、その背景に関わる産業全てに対して、応援や賛同の意思を表していることになるということを、もっと知ってもらいたいです。
 
何も考えないでものを買う方が楽に生きていけます。楽な方に流れるというのは人間の本能だと思うので、それを否定はしないし、ある意味それは人間っぽいともいえる気もします。しかし、私は実際にものを作ってみたことで、さまざまな環境汚染や、児童労働などの人権問題が背景にあることを知りました。それは、ものを作る側が開示しない限り、消費者にわからないことですが、同時に消費者が気にしないことだから、作る側の開示が進まないという側面もあると思うのです。
 
自分が本当に良いと思うものに対して、ものづくりの背景も含めて納得してお金を使うということを、少しずつ意識してみて欲しいと思います。

編集後記

露木さんが作る口紅に唯一無二の価値を感じて使い続ける方のお話を聴いて思ったのは、「自分が心地よいと感じるお金の使い方をすることが、世の中を良くしていく」のかもしれないということ。みんなが「心地よい」で満たされることが、良い社会に繋がっていくと考えると、日々使う何気ないものもこだわって選びたいと感じます。一方で、なんでもすぐに手に入る世の中ですが、本当に理想とマッチするものって意外と少ないような気もします。そういうものを作ってくれる作り手さんを、応援していきたいですね。

取材・文:松尾千尋
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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