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「機会はまだ、平等じゃない」を、すこしずつ変えたい。五常・アンド・カンパニー・慎泰俊さんと考える、これからの資本主義

開発途上国の低所得者向け金融サービスを手掛ける、五常・アンド・カンパニー株式会社。複数のグループ会社を通じて、インド・カンボジア・スリランカ・ミャンマー・タジキスタンの五カ国で、小口融資を中心とした「マイクロファイナンス」事業を展開しています。2023年3月期の営業利益は17.6億円と、連結黒字化を達成しました。
 
創業者であり代表執行役の慎泰俊さんは、「途上国の低所得者層が、より使いやすい金融サービスとは何か」を考え続けています。
 
どのようにして長期的な利益の追求と社会的なインパクトの創出を両立しているのか、お話を伺いました。

慎泰俊(シン・テジュン)さんプロフィール
五常・アンド・カンパニー代表執行役。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。大学院在学中、米金融モルガン・スタンレー・キャピタル社員となり、在職中にマイクロファイナンス・ファンドを企画するNPO法人「Living in Peace」を設立。ユニゾン・キャピタルを経て、2014年に民間版の世界銀行をつくることを目指して五常・アンド・カンパニーを創業。「世界中に金融包摂※を届ける」ことをミッションに、途上国五カ国で二百万世帯に金融サービスを提供している。
著書は「15歳からのファイナンス理論入門」(ダイヤモンド社)、「働きながら、社会を変える 」(英治出版)、「ソーシャルファイナンス革命」(技術評論社)など多数。
 
※金融包摂:すべての人々が必要な金融サービスにアクセスでき、利用できる状況


資本主義に疑問をもっていたからこそ、選んだ道

-慎さんは、「貧困の終焉」(ジェフリー・サックス著)という本から影響を受けたことで、貧困をなくすための活動を思い立ったとお聞きしました。

私はあまり裕福ではない家庭の生まれで、資本主義が格差を広げるのだと思い、資本主義が好きではありませんでした。人権弁護士になりたいと考えて、大学の専攻は人権論を選びました。
 
大学時代は人権運動などにも参加したことがあるのですが、結局何も変えることができずに歯がゆい思いをしました。さらに、人権運動といってもお金がないと何もできないということも感じました。

声をあげるだけで、世の中を動かすことは難しい。資金力はものごとを実現する大きな手助けになることは認めざるを得ないということを、身にしみて感じたのです。
 
だからこそ、お金というものはどのようなもので、どのように動いているのかを知りたいと考えるようになりました。
 
そうした体験から、資本主義やファイナンスのことをちゃんと知りたいと考え、仕事は金融の道に進みました。

マイクロファイナンスの力だけで、世界は大きく変わらないけれど

-慎さんは「機会の平等がすべての人に与えられる世界をつくりたい」という志で、金融機関で働きながら、マイクロファイナンス機関への投資も行うNPOを立ち上げましたよね。それが現在の活動につながっていると伺いました。全ての人が十分な金融サービスを受けられるようになったら、社会はどのように変わってくると考えますか?

 人々の選択肢が増えることで、世の中が今よりは良くなるだろうと思います。一方で、私たちの取り組みが広がったからといって、全てが解決するとは思っていません。
 
金融包摂は、機会の平等の一構成要素に過ぎません。機会の平等の構成要素は、自然環境・ハードインフラ・ソフトインフラの三カテゴリーからなります。自然環境は、きれいな水が飲める、耕作可能な土地があるといったこと、ハードインフラは電気やガス・水道、鉄道、道路など、ソフトインフラは、医療や教育、法律、金融などですね。
 
ひとつでも十分でないと暮らしは大きな影響を受けますが、途上国だといろんなことが欠けることが多いのです。だから、金融包摂を世界中に届けたからといって、それだけでは解決になりません。それでも、すこしは良くなるだろうということです。
 
人はひとりで、すべての問題を解決することはできません。社会にある課題のうち、「自分にはこれができそうだから取り組もう」と考えて、何かに携わる他ないと思います。みんながそうやって役割分担をして、各々が熱意をもっていたり得意だったりすることに取り組むことで、世の中がすこしずつ良くなっていくのだと思います。
 
マイクロファイナンスを世界中に届けるだけで、貧困を終わらせることができるとは思っていません。でもすこしは良くなるはずだから、決してムダではないと信じています。

-貧困の根本には、さまざまな機会が平等に行き渡っていないことがあるのですね。

重要な点は、「貧困とは何か」というそもそも論です。
 
「能力やリソースが足りないが故に社会に参加できない状態」というのが、私が考える貧困の定義で、これはアマルティア・センの主張に影響を受けています。お金がないことも含めたいろんな理由によって自分の居場所が社会にないことが貧困であり、それが最も深刻なことなのです。たとえば、みんなが普通に学校に行けるのに自分はお金がないから行けないといったことですね。
 
貧困をこのように定義すれば、貧困が単なる所得の問題に収斂されないようになります。お金は数えやすいので、所得向上は目的にされやすいように思うのですが、それよりも重要だと思うのはさまざまな障害が取り除かれて自由が実現されることですよね。ここでいう自由というのは、自分の未来を自分で決められるということです。より具体的には、政府・仕事・結婚などを自分たちで決められるということです。
 
たとえば戦争が良くないことだと言われるのは、人の自由が著しく阻害されてしまうから、と考えることができます。地球環境が課題となっているのも、気候変動などによって人の自由が制限される懸念があるからだと説明できます。ある程度の自由は金銭でなんとかできるのでお金も大切ですが、それは手段であり目的ではない、ということです。
 
マイクロファイナンスによってすべてを解決することはできませんが、途上国に暮らす人々の自由を拡大するための助けにはなっていると信じています。

途上国の人々も、自分と同じ。あたりまえのことに気づいて見つけた課題

-五常・アンド・カンパニーは、金融包摂を世界中に届ける取り組みをされていますよね。今、現場にはどのような課題があるのでしょうか。

私たちが取り組む以前から、マイクロファイナンスは存在しています。そもそもコミュニティを基礎にした信用組合は世界で千年以上の歴史があります。2006年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行は、1983年に創業されたものです。
 
グラミン銀行をはじめとするマイクロファイナンス機関は、発足当初は連帯保証制度を採用していて、借り手は五人一組のグループとなり、返せない人がいたら連帯責任を負ってグループ内の別の人が返すという仕組みをとっていました。
 
でも、自分が借り手だったらと考えた時、この仕組みは嫌ですよね。連帯保証の仕組みを採用しているケースは減少傾向にありますが、途上国のお客様にとって使いやすいサービスにする余地はまだまだあります。
 
自分の身に置き換えて嫌だと感じることは、途上国の方も同じように感じているものです。そんなあたりまえのことに、この仕事をするようになって気づきました。どこに暮らしていても、人間の考えることに大差はないということです。
 
途上国の低所得者層の方は、いろいろな理由でお金を必要としています。大きく分けるとふたつで、ひとつめは事業用の資金、ふたつめは生活に必要なお金も含めた資金繰りです。その中で使える金融サービスとしてはマイクロクレジット、親戚や知り合いから借りる、ロスカと総称される村の寄り合い的な信用組合から借りる(貯める)、高い金利を払えば貸してくれるような人から借りる、といった選択肢があります。
 
ひとつめの事業用の資金としては、マイクロクレジットは相性のよいサービスになっています。典型的なマイクロクレジットの返済期間はだいたい十八ヶ月の設定で、途上国のビジネスサイクルに合致しているのです。たとえば途上国には、子牛を育てて売るという事業があります。その場合、子牛を買ってから一年半で大きくなって売れるようになるので、ぴったりです。

一方で、ふたつめの資金繰りについては、個人的な貸し借りか、高い金利を払えば貸してくれる人たちに頼ることくらいしか選択肢がありません。先進国であればキャッシングなどを利用できますが、途上国にはそうした金融インフラがありません。
今日借りて一ヶ月後くらいに返したい、といった短期的な資金繰りには、マイクロクレジットの返済までの期間は長すぎます。
 
現場でこうした実情を知るうちに、マイクロクレジットは事業向け融資としては優れているものの、途上国のお客様のニーズ全てに対しては応えられていないのではないか、と感じるようになりました。この課題を、ちゃんと正面から見据えないといけないと思っています。

-お客様のニーズに合った金融サービスを提供するために、どのような取り組みをされていますか。

マイクロファイナンスをより使いやすいものにするためには、取引単位・返済頻度・満期をできる限り柔軟にするということが大切です。たとえば借入も預金も一円から使えて、支払い周期も満期もある程度自由に設定できる金融サービスが理想です。
 
しかし、現状のマイクロファイナンスはどうしても労働集約的になりがちなので、取引額が小さいものばかりを取り扱うと、コストが嵩んでしまうことが課題です。従業員の訓練やデジタル化も積極的に進めてコスト削減をおこない、より短期間の融資を比較的低い金利で受けられるようなサービスが必要です。現在もいくつかパイロットプログラムを行っています。

資本主義の世界で、社会的インパクトを実現するために

-株主とのコミュニケーションで、大切にしたいと考えていることはなんでしょうか。

一番重要だと思っているのは、長期的な目線に立って価値の最大化を目指す、という点を繰り返し伝えていくことです。それをうまくやり遂げたと個人的に思っているのが、Amazonのジェフ・ベゾスさんです。「キャッシュフローを見る」、「低い利益率であっても長期の視点で価値を最大化する」と二十年間言い続けて、今あれだけ巨大な企業に成長している実績からは、学べることがあると思います。
 
短期的には儲かるかもしれないけれど、長期的な成長や利益の目線ではマイナスの影響を与えることが、ビジネスには多々あります。そういうことをしっかりと説明して、納得いただくということを地道にやって、やり抜かないといけないと考えています。

-慎さんにとって、理想的な資本主義のあり方とはどのようなものでしょうか。

資本主義の基本的な構成要素は私的所有権と市場経済です。市場経済は、人々の創意工夫をうまく引き出して経済を成長させる上で、とても良い仕組みだと思います。参加者らの意見を集約する仕組みも優れている点ではないでしょうか。ひとりひとりのお金の使い方が集約されて、社会にとっての共通見解になっていますよね。
 
一方で、「市場の失敗」と経済学で言われるようなことが起きるなど、課題はいろいろあります。たとえば「格差が開いていく」、「放っておくと一部の産業では独占が生じて長期的な生産性が低下する」というのは代表的ですね。
 
個人的な考えですが、今の資本主義のシステム以上に根本的に優れているものは、なかなかつくれないのではないでしょうか。だとすれば、今のシステムは維持させながら、それによって生み出される失敗を抑える、あるいは何らかの形で是正したり埋め合わせるような仕組みが一緒にあることが最適解ではないかと思っています。
 
たとえば、スウェーデンは企業の廃業率がとても高いのですが、セーフティネットがあることでやり直しができる仕組みになっています。
 
競争はある一方、失敗した時の救済の仕組みや、格差が開いていかないような制度がある世界が、理想的だと私は考えています。

本当に大切なものごとにお金を使うことで、世界は変わるのかもしれない

-「資本主義によって集約された人々の意思が世の中をつくる」と考えると、責任をもってお金を使いたいと感じますね。ご自身がお金を使うときに意識していることはありますか。

ものをあまり持たないようにして、自分が納得したものにお金を使うことを心がけています。
 
これは資本主義の弱い部分によるものだと思うのですが、私たちは必要でないものも必要だと思わされる社会に暮らしています。
 
たくさんのものに囲まれていると、何が大切だったのかわからなくなってしまうので、とにかくものを減らす、ということを意識しています。
 
二百項目くらいの持ち物リストをつくっていて、そのリストに入っていないものは買わないことにしています。あ、本はリストの対象外です(笑)。個人的な所持品は、楽器以外のものは大きめのスーツケースふたつでおさまると思います。
 
ちなみに、去年のお金の使い方として、一番金額が大きかったのは寄付です。その次は、途上国でお客様の写真を撮るためのカメラでした。

-社会にとって良い選択をしていきたいと考えている読者の方に、メッセージをお願いします。

自分が使っているものや買っているものがどこからきているのか、知ることから始めるとよいのではないでしょうか。
 
企業の株を買う場合も、ものを買う場合も、寄付する場合も、自分が本当に納得したお金の使い方をするように心がけることが大切だと考えています。私も寄付をする際は、それがどこに行ってどうやって使われるのか、はっきりわかるところに寄付をしています。
 
ピンとこないものは買わないとか、はじめは自分なりの基準でいいと思います。資本主義の社会は「人気投票」でできているので、たくさんの人がお金の使い方を意識することで、社会にインパクトを出している会社が、生き残りやすくなるのではないかなと思います。

編集後記

自分のしていることの影響力はそれほど大きいわけではないと、とても謙虚にお話をされた慎さん。世の中全体を俯瞰してものごとを考える姿勢に対して、尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。

ひとりひとりができることは、本当に小さなこと。しかし、五常・アンド・カンパニーのウェブサイトをのぞいてみると、マイクロファイナンスのおかげで暮らしが豊かになった方々のストーリーがいくつも掲載されています。小さな取り組みの積み重ねが、誰かを嬉しい気持ちにすることにつながるのだと腑に落ち、勇気をいただいたような気がします。

日々の買い物やごみの捨て方など、自分が意識しても大した力にはならないだろうと、諦めてしまいたくなる時もあります。そういう時は、個人がもつ力は小さいからこそ、みんなで取り組む価値があるということを、思い出したいと感じました。

取材・文:松尾千尋
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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