楽しさで広がれ、エシカルの輪。Gab代表山内萌斗さん流・社会課題へのアプローチ方法
有楽町マルイ内、エスカレーターで6階へ上がったすぐ左に、ナチュラルな雰囲気が目をひくおしゃれな雑貨店があります。
お店の名前は、「エシカルな暮らしLAB」。2022年9月からこの場所で営業をしています。店内には「目薬のボトルをリサイクルしてつくられたメガネ」や「廃棄されるリンゴの搾りかすからつくられたリュックサック」など、思わず手に取りたくなるアイテムがずらりと並びます。
お店を運営しているのは「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」をミッションに掲げる、株式会社Gabです。実店舗を持つきっかけとなったのは、同社の運営する「エシカルな暮らし」というInstagramアカウントだったといいます。
「うまくいくポイントは正しさよりも、まず楽しさ!」と話すのは、代表取締役CEOの山内萌斗さんです。どのようにして「エシカルな暮らし」の輪を広げていったのか、お話をお聞きしました。
「楽しさ」が持つ、圧倒的な巻き込む力
-「エシカルな暮らし」のInstagramアカウントは、フォロワーさんが5.7万人もいらっしゃいますね。こんなにたくさんの方に支持されるようになった背景には、どういったことがあるのでしょうか。
「エシカル」というのは、結構ハードルが高いと思うんです。エシカル商品は比較的値段が高いものも多いですし、社会課題があまり自分ごと化されていない人にとっては、関心を持ちづらいかもしれません。
Instagramのアカウントをつくる時に「社会課題にそれほど関心がない人にも振り向いてもらうためにはどうしたらいいだろう」と徹底的に考え、SNS運用が得意なメンバーにも協力してもらってアカウント運用をしました。
たとえば、1枚目に載せるキャッチコピーに目を引くフレーズを取り入れる、デザインもあえて奇抜さを意識する、といったことを実践しました。中身も、意外性のある内容を誰にでもわかる言葉で説明するように心がけました。
5ヶ月で1万人くらいの方にフォローしていただいたことで、「この切り口ならたくさんの人に振り向いてもらえる」と自信が持てました。
社会課題に関心が薄い人でも「楽しそう」「おもしろそう」と感じてもらい、思わず見てしまうような工夫を凝らしたところが、うまくいったポイントのように思います。
-「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」は、Gabのミッションとして掲げていることですよね。このミッションにたどり着くまでには、どのような経験があったのでしょうか。
もともと僕は、学校の先生になりたいと思っていたんです。中学校・高校で学校に馴染めず、居心地の悪さを感じていた経験から、同じような状況にある子たちを助けたいという思いが原点でした。
原点はそこにありましたが、さまざまな経験を重ねるうちにやりたいことの具体的な内容はどんどん変わっていきました。
まず、高校時代に堀江貴文さんが書いた起業に関する本を読んだことが、起業を目指すきっかけになりました。「教師ではなく起業家を目指した方が、よりたくさんの人を幸せにできるかもしれない」と可能性を感じ、教育学部から情報学部へ進路変更をしました。
さらに、起業を目指すために大学1年生の時に起業家育成プログラムを受けました。そこで教育を変えるためのビジネスアイデアが評価されてシリコンバレーへ行く機会を得たのです。
シリコンバレーでの経験はとても刺激的で、「日本の学校に馴染めない子たちがアメリカに行けば、もっと生き生きと活躍できるのではないか」と思いました。それと同時に、自分が教育を変えることで解決しようとしていた課題は、「アメリカへの留学」という選択肢を選ぶだけで解決できるのではないか、と思ってしまったのです。日本の教育を変えるというモチベーションを失って、自分のやりたいことを改めて深掘りすることにしました。そうしたら、「他者に貢献している実感を得たい」という願望や、「僕が活動することによって人々が得る幸せの総量を最大化したい」という思いがあることに気づきました。
さらに僕は、できることなら「人類全員から感謝されること」をやりたいと考えていました。そういう領域ってなんだろうと思考を進めた時に思い至ったのが、「環境問題などの社会課題を解決しないと、人類が地球に住み続けられない」ということです。そこから社会課題の解決に取り組みたいと考えるようになりました。もちろん、直接「ありがとう」と世界中の人全員から言ってもらえるわけではないですが、社会課題を解決するインフラを作って、それを使う人たちが恩恵を受けられていると感じることができれば、自分も貢献感が得られて幸せなのではないかと考えました。
ゴミだらけの渋谷の街からポイ捨てに社会課題を見出して、ビジネスコンテスト(以下、ビジコン)に出場したところ優勝できました。ただ、事業としてはなかなかうまくはいきませんでした。ビジコンは、街に広告を貼ったゴミ箱を置くというアイデアが評価されたのですが、土地の利権的な問題や許可が取れないこと、さらにはコロナ禍も重なり諦めざるを得なくなりました。ポイ捨てされやすい場所をマッピングしてもらうアプリサービスも立ち上げ、たくさんの方に使っていただけるようになったのですが、ポイ捨てに関心が薄い方には広がっていかないという課題を感じていました。
たくさんの人に社会課題へ関心をもってもらいたいのに、そのハードルは想像以上に高いと身に染みました。そこから、「社会課題を解決する敷居を下げるには、どうしたらいいだろう」と考えるようになったのです。
-敷居を下げるヒントは、どこから得たのでしょうか。
長野県に住むひとりの高校生との出会いがきっかけでした。先ほど話題に出したものとは別のビジコンに出た時にすごく興味をもってくれて言葉を交わしたのですが、その時の話に衝撃を受けました。
彼は長野県でゴミ拾いのイベントを企画し、100人以上も集客できていたのです。
某人気テレビ番組のゲーム要素とゴミ拾いを組み合わせた、「清走中」というイベントを実施した結果、「なんかおもしろそう!」とたくさんの人が集まってきてくれたといいます。今まで自分がひたすらに試行錯誤してきた「ポイ捨てに関心が薄い方にどう広げていくか」という課題を、たった1つの切り口で解決していることに驚き、「これ、すごい価値だよ」と思わず彼に伝えました。
僕がしてきたことの中にはなくて、彼の取り組みにあったのは「楽しさ」でした。人を動かす鍵は、そこにあったのです。これからは、「楽しさ」にアプローチしていかないといけないのだと思いました。
エシカル商品が生み出す「リッチな体験」という強み
-「エシカルな暮らしLAB」には素敵な商品がたくさん並び、とても楽しい雰囲気ですよね。Instagramのメディアから、どのような経緯で実店舗を持つに至ったのでしょうか。
「エシカルな暮らし」は、Instagramアカウントと連携する形でエシカル商品をEC展開していたのですが、事業の主軸となってくれるほどの売り上げにはなっていませんでした。そのような事情もあって、Instagram運用の知見を生かしたSNSコンサルが、大切な収益源になっていました。意外にも、この事業がきっかけで実店舗を持つことになりました。
初めての実店舗を持てたのは、友人の起業家が開催していたZ世代向けのイベントで出会った、三井不動産の担当の方とのご縁のおかげです。コロナ禍がまだ続いていた時で、渋谷にある宮下パークに三井不動産の保有する空きテナントが何件もあり、なんとかして集客できることをやりたいという課題をお持ちでした。僕たちはその集客のためのアカウント運用を任せていただきました。
その仕事を請け負った時、三井不動産のアカウントのフォロワーが増えたらどのように活かせるのかビジョンを見せないといけないと僕は考えました。そこで、当時2.7万人にフォローしていただいている「エシカルな暮らし」のメディアを使って、試験的にポップアップストアを宮下パークのテナントで出してみるという提案をしました。そこである程度の収益ができたら、三井不動産のアカウントの活用の仕方もイメージが湧くのではないかと考えたのです。
この企画が通って、宮下パークでポップアップストアをやることが出来ました。その結果、ECの10倍以上の売り上げになり、自分でも驚きました。
これを皮切りに、8ヶ月間で11回ものポップアップストアをさせていただきました。どこでやっても良い結果を出すことができ、エシカル商品と実店舗の相性のよさを確信しました。
Instagramをたくさんの方にフォローしていただけていることと、ポップアップで実績を出していることがアピールポイントになり、今ではさまざまなブランドさんの商品を扱わせていただけるようになりました。
-オンラインで見てかわいいと思った商品も、届いてみたらイメージと違うこともあるので、実物を見て買いたい気持ちはとてもよくわかります。社会課題に関心がある人ほどものを選ぶ目がシビアで、実店舗需要が高いのかもしれませんね。店舗でお気に入りを見つけてもらうために、どのようなことを意識して取り扱う商品を選んでいますか?
エシカル商品は価格が高めのものが多いので、ただかわいいとかおしゃれというだけでは選んでいただけません。とはいえ「楽しさ」とか「ワクワク感」といった、商品を選ぶきっかけになるのは見た目の力も大きいので、ビジュアルが良いものというのは大前提です。もちろん、使いやすさといった機能性も大事です。
見た目の基準をクリアしたら、商品の「内面」を詳しく見ます。具体的には、「裏側の透明性」「社会課題解決性」「ユニーク性」「ストーリー性」の4点です。
「裏側の透明性」は特に大切です。少しでも不透明な部分があるということは、エシカルではない面を持っている可能性があるということですから。僕たちのお店では、どこの工場で作られているとか、どういう素材を使っているなど、全て明確になっているものしか扱いません。
「社会課題解決性」は、「裏側の透明性」とつながっています。商品の裏側を説明することで、それを使うことがどんな社会課題の解決につながるのか納得してもらえます。
「ユニーク性」は、「楽しさ」につながります。たとえば、りんごやサボテンでできたレザー風の素材や、ホタテからできたネイルカラーなどの意外性があるものはお客様に驚きを与えてくれるようで、興味をもってくださる方が多いように思います。
「ストーリー性」は、たとえば「なぜホタテからネイルカラーを作ったのか?」という背景の部分です。ストーリー性を語ることで、そのブランドがどういう方向性・価値観なのか、深く理解してもらえます。
こういう要素を語ることができる商品は、見た目に惹かれて手に取って「ちょっと高いな」と感じられても共感を得やすく、買っていただけるきっかけになるポイントが多いと感じています。
加えて、ブランドの中の人の「人柄」の要素も上手く発信ができると「推し」の対象となり、お客様のファン化によって、末長く選ばれるブランドになります。
-「エシカルな暮らしLAB」にいらっしゃるのは、「エシカルな暮らし」のInstagramアカウントのフォロワー様が多いのでしょうか。
実は、お客様はフォロワーさん以外の方が多くなっています。有楽町マルイという人が集まる場所に出店させていただいているので、通りすがりのお客様がたくさん立ち寄ってくださっています。
店舗づくりは、Instagramアカウントと同じように、「いかにたくさんの方に興味をもっていただけるか」という点にこだわっています。「なんかこのお店は他と違うな」「少し立ち寄ってみようかな」と感じてもらえる工夫を凝らしました。
「エシカルな暮らしLAB」では常にお客様の声を集めることを大切にしています。集まった声を見ていて思うのは、来店してくださる方は「裏側の透明性に触れることで作り手の思いやこだわりを実感する」というハートフルな体験に価値を感じているということです。
今はものがあふれていて、その商品ならではの価値を感じてもらうことが難しい時代なのかもしれません。だからこそ、つくり手の思いやこだわりを伝えやすいエシカル商品は、「この商品でなければいけない」という理由を生み出しやすいのではないでしょうか。そういう価値を展示物や店員からの説明を通じて知るということが、きっとリッチな体験なんだと思います。
オンラインでの買い物がメジャーになっていますが、それだと自分の好みに最適化された情報しか得られないんですよね。世界が全然広がっていかないんです。でも実店舗なら、オンラインでは知り得なかった商品と出会えて、スタッフとの交流によって価値を知ることができます。そんな予定不調和な出会いも魅力なのかもしれません。
エシカル商品はどうしても少し価格が高くなってしまいますが、通りすがりにたまたま入ってくださったお客様からも購入していただけています。商品の背景に価値を感じたからこそ買っていただけているのだと思うので、エシカル商品を選ぶ意義を少しずつ広めることができている実感があります。
-「エシカルな暮らしLAB」での体験の価値を高めるために、どのような取り組みをされていますか。
「みんなで『つくる』お店」をコンセプトにして取り組んでいます。店舗に集まる人は、お客様、スタッフ、ブランドの担当者などの垣根はなく、全員がより良い商品開発に協力しあう仲間なのだというスタンスです。
たとえば、店舗スタッフからは、ブランドへの思いからシビアな意見までさまざまな指摘が寄せられます。それを僕たちが毎月まとめてレポーティングを行い、結果はブランド様に対しても還元します。ブランド様は、生活者に受け入れられるためにはどういうものづくりをしていけば良いのかヒントを得て、より良い商品づくりに生かすことができます。
店名に付いている「LAB」は「研究所」という意味です。エシカル消費がもっと広がるために、商品づくりや店舗づくりを研究する場にしたいという思いが込められています。
社会課題解決の敷居をもっと下げるために
-事業課題として感じられていることはありますか?
僕たちは、ブランド様の成長の手助けもしています。ですので、ブランド様のより良い商品作りや、コスト削減といった取り組みに対して助言することもあります。
その中で感じるのは、金銭的な課題です。何かを改善するにはお金が必要になりますが、この領域は市場がまだまだ小さく捉えられてしまうため融資が受けづらかったり、投資家からも、なかなかスケールしないと思われて出資を断られることもあります。助成金は活用しますが、1回受けたら2回目は受けられない場合もあります。
先ほど申し上げたように、店舗で得られた意見をブランド様にもたくさんフィードバックしているのですが、金銭的なリソースが足りないために、改善したくてもできないという状態も起きています。
僕たちも、低コストで改善できる提案や助成金の紹介などはしていますが、それ以上のことがまだできておらず、もどかしさを感じています。
まずは、ものづくりを通じて社会課題解決に取り組んでいる人たちが資金調達しやすい道をつくる取り組みを、これからやっていきたいと思っています。
-今後、どういうふうに事業を広げたいとお考えでしょうか。
僕たちがサポートできるブランド様の数をもっと増やしたり、人気なブランド様とのコラボアイテムもつくりたいですね。商品開発力が上がってきたら、お客様のニーズに合ったオリジナルの商品をプライベートブランドでつくることも視野に入れています。
ブランドオーナーの方は、高齢の方もいらっしゃいます。ブランド様の思いや地域に密着したものづくりを僕らが引き継いで経営を行い、ブランドをアップデートして地域貢献ができたら素敵だなと思っています。
「ゆるエシカル」が幸せにつながる
-貢献感が山内さんにとって大事なキーワードだと思うのですが、貢献感が得られるお金の使い方や、自分が幸せな気持ちになれるお金の使い方についてアドバイスをお願いします。
お金を使った先の裏側を考えることが第一歩なのではないかと思います。
裏側というのは、その商品がどんな人によってどのようにつくられたもので、つくられる過程で誰が幸せになっているのか、さらには使われることでどのような社会・環境に対する影響があるのか、というようなことです。
僕は、消費の力はとても大きいと思っています。しかるべき消費先を選ぶことで、貧困問題や教育格差、地方創生、ゴミ問題など、さまざまな課題解決に貢献できると考えています。ひとりひとりがお金を使う先を少し変えるだけで、社会課題を解決するためのお金の循環は実現できると思うんですよね。
商品やサービスの裏側をよく知って、誰の幸せに対してお金を払っているのかという実感を持つことが、自分自身の貢献感と幸せにつながってくると思っています。
僕自身は、なるべく「エシカルな暮らし」で販売している商品を使って生活することを心がけています。ただ、頻繁に買わなければならないものは、こだわりすぎると出費が嵩むので、余裕がある時だけエシカルなものにこだわってみるというスタンスです。1アイテムでも意識することに、価値があると思います。小さな一歩を肯定しながら、ポジティブな心持ちで取り組めるとよいですね。
気候変動やゴミ問題、貧困問題などの危機感によって行動してしまうと、これまでの自分の人生や現代社会で普通に生きているだけの日常生活まで肯定できなくなって辛くなってしまったり、周りに対しても厳しくなってしまうかもしれません。事実を把握し行動することは大事ですが、長く続けてみんなに広がることの方がもっと大切だと思います。一歩立ち止まり、自分の心と対話をしながらゆっくり駒を進めていけば良いのではないでしょうか。
編集後記
私たちが、ものづくりのストーリーに惹かれるのはなぜなのでしょうか。
使うたびに作り手の思いを感じて心が和むから。使ったお金が相手の暮らしに役立つ実感が得られるから。それらの本質は、ものを通じて伝わる人のぬくもりに幸せを感じるからということだと思います。
昔、人は小さなコミュニティの中で暮らしていました。その中でものを交換したり、得意なことで手助けし合ったり、みんなで助け合って生きてきたのだと思います。人の幸せは、そういう関係性の中から生まれてくるものも大きいのかもしれません。大量生産されたものが主流になって、ものやサービスから「人の気配」が薄れてきてしまったさびしさに、多くの人が気づき始めているのではないでしょうか。
「エシカルな暮らしLAB」の魅力は、お店やSNS・商品を通じて、つくり手や社会とつながることができるところにあると感じました。
「誰かを幸せにする消費」は、「誰か」だけではなくて、自分も幸せにする。自分が使ったお金の先は、たくさんの人の笑顔に続いているのかもしれないと考えたら、嬉しい気持ちになりました。
山内さんがインタビュー中に見せてくれる無邪気な笑顔。山内さんが進む先々にも、たくさんの人の笑顔が続いていると思える素敵な時間でした。(オフショットにて)
取材・文:松尾千尋
撮影:樋口勇一郎
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
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