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未来につなぐ消費とは?鎌田安里紗さんと“エシカル消費”を考える

「エシカル消費」という言葉を聞いたことがありますか?

エシカル(ethical)は「倫理的」という意味ですが、現代では「地球・人・社会にやさしい消費」と認識されています。SDGsや社会問題への注目から、近年「エシカル」という言葉が広がりをみせています。

一方で「エシカル消費」をイメージしづらいと感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回、Money for Good編集部は、エシカルなファッションについて発信や企画をされている、鎌田安里紗さんのもとを訪れました。鎌田さんの運営する一般社団法人「unisteps」では、サステナブルファッション実現のため、企業・行政、生活者、デザイナーとの取り組みを通して多方面から産業構造や意識の変革を後押ししています。

なにか強い想いがないと近寄りがたいと思ってしまう「エシカル消費」ですが、鎌田さんが渋谷109での販売員時代からどのような変遷を経て今の活動に至ったのかを伺い、「エシカル」の捉え方、お金との付き合い方について考えました。

話者プロフィール:鎌田安里紗(かまだ・ありさ)
1992年徳島市生まれ。高校在学中から雑誌『Ranzuki』のモデルやアパレル店員として活動を始める。「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。


「値段が最重要」アパレル業界に感じた違和感

Q.鎌田さんは高校生のときから雑誌『Ranzuki』のモデルとしても活躍され、今はエシカルファッションに関わっていらっしゃいます。なぜファッションのサステナビリティに興味を持ったのでしょうか。

高校生の時に、渋谷109でアパレル販売のアルバイトをしていたんです。当時、外資系大手アパレルメーカーの1号店ができ、ファストファッションが広がり始めた時期でした。

そんなとき、店内で服を見ていたお客さんの間で、「これと似ているもっと安い服が他の店にあったよ」といった会話が増えてきたんです。値段は服を選ぶ時の重要な指標の一つですが、当時はあまりにも値段が重要視されていて。モデルの仕事でも「5,000円以下のプチプラコーデ」のような企画が増えていました。

当時の私は、安い服が多いのは嬉しかったですし、ファストファッションも好きでした。しかし、同時に「購入の判断基準が値段ばかりに偏っていていいのだろうか」という違和感が生まれたんです。

Q.「値段重視」の違和感に対し、具体的にどんな行動をされたのでしょうか。

なぜ衣服の値段にこんなに違いがあるのか気になったのですが、当時服を販売していたものの、どのように生産されているのか知らなかったので、まずは生産について調べることから始めました。当時、食品の領域でフェアトレードという言葉を耳にする機会があり、ファッションの生産過程に課題はないのだろうか?と思い、「ファッション フェアトレード」と検索し、見つけたのがフェアトレードのアパレル製品を扱っている「People Tree」さんでした。生産過程での環境負荷や働いている方の労働環境など、スタッフの方が詳しく教えてくれるんですよ。ここまで説明してくれるの?と思いましたし、そういった背景を知った上で服を買えることに安心感を覚えました。1着の服が作られるまでの工程やそこでの工夫を全く知らずに服を着ることが、もったいないなと。自分が納得できる物を買うためには、生産背景も知りたいなと思ったんです。

販売員やモデルという職業は、ファッションの楽しみ方を伝えていく仕事です。コーディネートだけではなくて、作る過程なども伝えていこうと思いました。当時はブログをやっていたので、自分が学んだことをシェアするような感覚で発信していましたね。

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エシカル消費とは「納得して、誇りを持って語れること」

Q.今はエシカルファッションについて発信をされていますが、鎌田さんにとってのエシカル消費はどのようなものですか。

そうですね。納得して買うこと、誇りを持って語れること、ですね。エシカルには環境や動物福祉など、いろいろな軸があります。その中で“自分の軸で判断基準をもつこと”だと思います。

私の場合は、自分の仕事に誇りを持って語ってくれる作り手さんに出会うと嬉しいので、それを判断基準にしています。その方の思いを知った上で、物を買えるのはありがたいなって。たとえまだ改善の余地があったとしても、現在の課題を正直に伝えてくれた上で、向かっている理想について語ってもらえると、応援させてもらいたいなと思います。

Q.ファッション業界では、エシカル消費は広まっていると感じますか。

良くなっている部分が多いと思います。10年前は、エシカルファッションやサステナブルファッションに触れることが「偉いね」と言われるような、特殊なカテゴリの1つのように認識されていました。けれど今は、ベースとして取り組まなくてはならないこととして、認知されていると実感しています。

ファッション業界のサプライチェーンは複数の国をまたいでいたり、他の業界と比較して長かったり、農家や加工業者などのサプライヤーの規模が小さく把握しづらかったりするのが特徴です。自分の会社の製品ができるまで、どこで何が起きているのか、どれだけ環境負荷がかかっているのかを把握しきれない部分が多いんですよね。でも、透明性がないとブランドの良し悪しも判断できないですし、ブランドとしても改善できません。だからこそ、ファッション業界の透明性を高めることの重要性について業界全体が共通課題として認識できているのは、大きい変化だと思います。

Q.鎌田さんは、ファッション業界がどんな業界になって欲しいですか。

unistepsは「多様で、健康的なファッション産業をつくる」をビジョンに活動しています。たとえば、大手企業さんだけでなく、多様なプレイヤーが、その人の目と手が届く範囲で服を作って届けてくれる世界が理想です。

ファッション業界は徐々に良くなってきていますが、いまだに不健全な状態の部分も多いです。生産者の労働環境や自然への影響、リサイクルに関する課題など。それが少しでも良い状態になったら嬉しいです。作り手の考え方、土地の文化や気候が反映された物など、さまざまな「個性」がある状態の方が面白いと考えています。

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お金は、良い関係性を生むための「道具」「手段」

Q.「エシカル消費」をするためにはお金が必要になることもあります。鎌田さんにとって「お金」とはなんですか?

有難いことに、季節の果物を送ってくれる方、野菜をお裾分けしてくれる方、生活する中で友人や知人から頂きものをすることが多くあります。私も素敵な物を見つけたとき「あの人に贈りたいな」と思って送ることがあります。これって、使っているお金としては直接野菜や果物を購入するのと変わらないかもしれませんが、単に自分のために購入することでは得られない喜びがあると感じます。そういう意味では「良い関係性を生むこと」に対してお金を使っているのかもしれません。

かつては、持っていることで人から尊敬されるようなもの、例えば高級ブランドのバッグなどを買えることが豊かさの象徴とされていたのが、今では、尊敬できる人から物を買わせてもらえることが、豊かさであり本当の贅沢であるという考えが少しずつ広がってきているのではないでしょうか。

お金は感謝の気持ちでもあり、尊敬の表現でもある。複合的なものですが、そんな想いでお金を使えたら嬉しいですね。

Q.鎌田さんは、寄付やクラウドファウンディング(以下、クラファン)などにも、お金を使いますか?

寄付やクラファンもやります。

クラファンの支援先は、知り合いが多いです。一人でも応援してくれる人がいることがどれだけ心強く嬉しいことか、私自身も様々な活動をする中で感じているので。「応援しています」という気持ちを込めて、支援します。寄付はもう少し遠い人で、会ったことがなくても尊敬する団体や人に対して行います。自分にはできないことを何十年も続けていらっしゃる人たちには、本当に頭が下がります。

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「守りたいものを未来につなぐ」この気持ちで買い物をしてくれたら

Q.今後、ファッション業界がよりエシカルになっていくために、私たちにできることはなんでしょうか。

商品に対して少しでも気になることがあれば、企業さんに聞いて欲しいなと思います。仕事の中でも消費行動においても、素朴な疑問を「社会はこういうもの」と自分でも気付かぬうちにスルーしているかもしれません。

「このブランドの服って買っても大丈夫ですか?」と質問をもらうこともあるのですが、その際には、どんなことが心配か、また好きなブランドだからこそ安心して買いたいという気持ちをブランドさんにメールしてみては?とお伝えしています。

何でもかんでも問い合わせが来たら企業側も困ってしまうかもしれませんが、知りたい情報を調べてみてもウェブサイトや店頭の情報からはわからない場合に、真摯に質問を送ることは良いことだと思います。

それから、生活者の購買行動は、私たちが思っている以上にインパクトが大きい。皆さんの購買行動によって、企業はものづくりの方針を大きく変えることがあるのは、なかなか実感できないかもしれないけれど、もっと知ってもらいたいです。

また、使ったお金は、作り手さんの過去、これまでの努力、アイデアに対する感謝でもあり、応援の気持ちを示す手段でもあります。これは生活者として服を購入するときも、企業として服を作るときも同じ。生産をお願いしている工場さんに無理をさせていないか、気をつけていないと思わぬところにしわ寄せがいっているかもしれません。

自分が物を手に入れるためにお金を使う、ということだけでなく、「未来に残したいもの・つなぎたいもの」にお金を手渡す、という意識を大切にしたいと思います。

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編集後記

鎌田さんはエシカル消費を「誇りを持てること」だと表現し、感謝を伝えるための手段、未来への投資だともおっしゃっていました。一方で筆者にとってのエシカル消費とはなんだろうと考えたとき、それは「自分が関わるものや人、その周りにあることにも思いやること」でした。

そんなふうに、同じ「エシカル消費」という言葉でも、考え方や大切にしていることが違うことに面白さを感じました。100人に聞いたら、100通りの答えが返ってくる……温かい心と個性が、「エシカル」という言葉にあるのだと思います。

自分が何を未来につなぎたいか、どんな世界になったら嬉しいか。一人ひとりが、こんなことを考えながらお金を使い、選択していったら、より良い世界を作れるのではないでしょうか。

編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部
写真:樋口勇一郎

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