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1枚のクッキーで社会に良いことを。ovgo代表・髙木里沙さんにきく、お金とソーシャルグッドの関係

ヴィーガンやベジタリアン、グルテンフリーという言葉を目にする機会が、年々増えてきています。宗教やアレルギーなどによって食べられない食材がある人、環境や社会に負荷のかからない食事を心掛けている人など、食の選択肢は多岐にわたります。

誰も取り残されない社会と、環境や動物、あらゆる人々、みんなのやさしい未来に向かって、食の選択肢を提供しているベイクショップがあります。

今回取材をさせていただいたovgo Bakerは、「おいしく・たのしく・やさしく」を軸に据えながら、プラントベースのアメリカンベイクという事業を通じて社会課題解決を目指しています。その背景には、どのような思いが込められているのでしょうか。お金とソーシャルグッドの関係について、代表の髙木里沙さんにお聞きしました。

髙木里沙さんプロフィール
慶應義塾大学大学院を修了。学生時代には米国とフランスに在住経験を持つ。新卒でメリルリンチ日本証券(現BofA証券)の投資銀行部門に入社し、グローバルM&AやIPO等の業務に携わる。その後、2021年に株式会社ovgoにCFOとして入社し、2023年より代表取締役に就任。


「おいしく・たのしく」を通して、みんなをハッピーな笑顔に

-ovgo Bakerについて教えてください。

「ovgo」は、“organic, vegan, gluten-free as options"の頭文字をとって名付けられました。2019年、表参道の「青山ファーマーズマーケット」などのマルシェに参加し、知り合いのカフェに卸販売を開始しました。2020年にはECサイトでの販売をスタートし、現在では東京・日本橋、原宿など4つの実店舗を展開しています。
 
ovgo Bakerは、クッキーやバナナブレッドなどプラントベースのアメリカンベイクを通して、あらゆる人々をハッピーな笑顔にするというコンセプトで創業しました。「Doing Good Tastes So Good (みんなにとってちょっとうれしいことをするのってこんなにおいしい)」を合言葉に、食の多様な志向に応えながら、環境・社会問題の解決を目指しています。

弊社の主要商品であるクッキーを含むすべての商品は100%プラントベースの原材料で作られています。お肉や乳製品など動物性の食材を使用しないことで環境への負荷を減らすことができます。また、このような食材を使うことで、宗教上の理由やアレルギーなど様々な食の制限がある人たちも一緒に、みんなで同じものを安心してたのしむことができます。クッキーを通して、みんなにとって「たのしくて、やさしい気持ちになれる世界」をつくっています。誰も取り残されない社会と、環境や動物、あらゆる人々、みんなのやさしい未来を目指して、「おいしくて、やさしい食」のたのしい選択肢を提供しています。

-ovgo Bakerで大切にしていることを教えてください。

原材料へのこだわりや環境、社会に対する思いももちろん大切にしていますが、まずはどんな人が手に取っても「たのしく、ワクワクするような、おいしいクッキー」を作ることを心がけています。まずは、「ああ、おいしかった」といってくださるかどうかが大切だと思っています。どんなに材料にこだわっていても、社会課題の解決につながっていても、「おいしい」と思ってもらえなければ「また食べたい!」とはならないと思うんです。
 
弊社のお客さまの7割以上が宗教やアレルギーなどによる食の選択肢に制限が特にない方です。弊社の商品がヴィーガン仕様だと購入後に初めて知ってくださる方もいます。弊社のクッキーを通して、環境や社会問題に興味をもっていただけたら、もちろん嬉しいですが、社会にとって良いからと無理に押し付ける必要はないと思っています。
 
「おいしく・たのしく」を作り続けていたら、家族や友達のプレゼントに買ってくださったり、日常の一部として溶け込んでいったり、サステイナブルな輪が自然と広がっていくと思っています。食の選択も、社会にとって良いと思うことも、人それぞれ違います。一人ひとりの価値観を尊重し、押し付けないことを大切にしています。

お客さまもスタッフも一緒に。サステイナブルな輪を広げていく

-どんなお客さまが多いのでしょうか。

家族や友達へのプレゼント、自分へのご褒美に購入してくださる方が多い印象です。
 
弊社は、おしゃれに関心・感度の高いZ世代をターゲットに事業をスタートしました。イベント開催やコラボレーションなどを通じて、Z世代のお客さまのおしゃれなライフスタイルに、弊社の商品を織り込んでもらえるような工夫をしています。

EC販売や店舗拡大など事業の拡大に伴い、現在ではミレニアム世代以降のお客さまにもたのしんでいただけています。Z世代だけでなく幅広い層のお客さまにプラントベースやソーシャルグッドへの興味を促すきっかけづくりになれたらと思っています。

-SNS活用などどのようなプロモーションをされていますか。

弊社では、Instagramを活用して商品や店舗の様子、イベント情報を発信しています。年々、フォローしてくださる方も増えており、Instagramを見て、店舗に来てくださる方も多いです。

弊社では、商品展開において流行を取り入れる工夫もしています。推し活や、かわいい見た目のベイクを目的に来てくださる方も多くいらっしゃいます。お客さまが「かわいい、おいしい」と弊社の商品や店舗の写真を撮ってSNSにアップしてくださり、それを見た別の方が新たに興味を持って、店舗に足を運んでくださいます。
 
そのため、来店して初めてプラントベースだと知る方も多く、弊社が提供するソーシャルグッドな取り組みを、自然な流れで知っていただくことが多いです。

-ovgo Bakerが推しという方も多いとのことですが…

お客さまの中には、ovgo Bakerの「ファンです」「応援しています」と言ってくださる方々も多くいらっしゃいます。私自身、カフェやお店に行くことはあってもお店のファンになるという感覚は、これまでありませんでした。しかし、ovgo Bakerには、ありがたいことにコアなファンの方がとても多いなと感じています。現在働いているスタッフの中にも、もともとお店のファンでお客さんとしてお店に通っていたという子も沢山います。
 
お客さまもスタッフも、ovgo Bakerのことを好きでいてくれるからこそ、サステイナブルな輪が広がっているのかなと思います。

海外進出を視野に国際認証B Corporationの取得

-2023年に国内飲食店初となるB Corp認証を取得されました。取得された背景などを教えてください。

弊社は、創業時より海外進出を視野に入れており、国際認証であるB Corpの取得は、サステイナビリティな取り組みがグローバル基準で実施するスタートラインに立ったことを示すものだと考えています。そして、2022年に国内飲食店初となるB Corp認証を取得しました。
 
B Corp認証は、社会や環境に配慮した企業のパフォーマンスを評価し、高い基準を満たす企業に与えられる国際認証制度です。近年は、様々な企業がSDGsをはじめとする社会的取り組みを行っています。B Corp認証を取得することで、取引企業からの信頼性が高まると同時に、グローバルな連携もしやすくなります。

-法人向けの取引もされているのでしょうか。

2024年3月にホワイトデー企画として、大手国内航空会社が運営するプレミアラウンジにおいて弊社のスマイルクッキーを提供させていただきました。グルテンフリーのお菓子を探されていた中で、おせんべい系の商品は多いものの、クッキーはあまりないという点で、弊社の商品を採用していただきました。弊社の商品は、環境問題やヘルスケアの視点から興味をもってくださる方はもちろん、宗教上の理由で食べられない食材がある方や、食品アレルギーをお持ちの方やそのご家族でも一緒にたのしめるという点でも、大変好評だったようです。

弊社はB Corp認証やCFP(カーボンフットプリント)の算出などにより、透明性をもって事業を行うことで、「おいしく・たのしく」という価値観を大切にしながらも、同時に「やさしく」、環境問題や社会問題解決にもグローバル基準で取り組んでいます。

B Corp認証取得をきっかけにグローバル企業から協業のお話をいただくことも増えてきています。今は「社会的な取り組み」とされていることも、決して特別なことではなく、「取り組むことが当然の社会」にしていくことが私たちの理想です。そのような未来に向けてリードしていきたいと思っています。

モノの消費から、体験へ。「応援」につながるお金の循環

-2023年より代表取締役に就任されましたが、どんな変化がありましたか。

経営者として働く中で価値観の変化はありました。お子さんがアレルギーを持つ親御さん、環境問題に関心をもつ学生さん、地方でお取り扱いいただいている店舗や企業の方々など、様々な人との出会いを通して、多様な生き方、価値観を学びました。
 
社会に良いことをしたくても、できない理由や状況もある。一人ひとり生きている社会が同じであっても見方や価値観は違います。経営をする中でそのようなことに気付いてから、自分の選択したものや体験が「誰かの応援につながったらいいな」と、思いが巡るようになりました。
 
たくさんの人の目線を知ることで、弊社が掲げる「おいしく・たのしく」を提供し、多くの方にハッピーな笑顔になってほしいという思いが、より一層強くなりました。ソーシャルグッド(社会に良いこと)を押し付けず、弊社のクッキーを通して、一緒に過ごす人との時間やお店の空間をたのしんでいただきたいと、経営者としての方針にもつながっていきました。

-経営者になって、「お金」に対するイメージにも変化はありましたか。

ソーシャルビジネスという分野で「お金」と向き合う中で、モノの消費やお金に対する印象は変わったように思います。率直にいうと、お金は良いもの、悪いものという単純なものではなく、「必要なもの」「豊かさにつながるもの」だと私は考えています。特にビジネスを行う上では、お金がなければ事業が成立しないので、どうしたら豊かなお金の循環を継続していけるかを常に考えるようにしています。

-プライベートでは、どのようなものにお金を使っていますか。心がけていることがあれば教えてください。

最近は、サウナや旅行、キャンプなど「体験」にお金を使うことが多いです。社会人になってからは、限られた時間の中で「何にお金と時間を使いたいか」をよく考えるようになりました。どちらも有限の中で、自分のモノを買うことよりも、誰かと過ごす時間、普段はできない体験にお金を使いたいと思うようになりました。旅行やキャンプなどの体験は、その場限りの娯楽ではなく、人との交流を通して視野や価値観を広げたり、新たな発見をもたらしたりと、自身の人生を豊かにする、投資であると感じています。
 
また、友人や知人などお世話になっている人にプレゼントを贈る機会が増えました。先ほどの話にもつながりますが、自分に対するモノの消費よりも、誰かに感謝の気持ちを伝えるツールとして買い物をする機会が多くなったと思います。

-何かきっかけがあったのでしょうか。

以前アメリカを訪れたときに、私自身、モノの消費に対する価値観が大きく変わりました。モノを買うことが「応援」や「投資」につながっていることを多くの人が認識していて、モノの消費が物質的な交換ではなく、価値や思いやりの交換として行われている印象がありました。
 
そのようなお金の価値観は、日本だとまだ十分に浸透していないと個人的には思います。私自身も、完璧に意識ができているわけではないですが、自分なりにできる限り意識をして、「応援」につながるようなお金の使い方を心がけています。例えば、同じ商品ならば、より環境にやさしい商品であるのかを気にかけてみたり、商品が作られる背景を調べてみたり。できるときに無理なく、たのしくお金を使うということが豊かなお金の使い方なのかなと思います。

「ソーシャルグッド」を日常に、当たり前に

-今後展開していきたい事業や挑戦していきたいことについて教えてください。

現在は国内での事業がメインですが、グローバルに展開していくことが大きな目標です。海外進出を通して、より多くの方に商品を召し上がっていただき、環境や社会に対するポジティブな取り組みを広めていきたいです。チャレンジングなことではありますが、実現に向けて邁進していきます。
 
また、将来的なゴールは、「オブゴる」という動詞を浸透させることです(笑)。検索エンジンを使うときに「ググる」というように、ovgo Bakerのお菓子が日常に溶け込んで生活の一部になり、「オブゴる」という動詞が広まるくらいに、サステイナブルな食の選択、ひいてはサステイナビリティの象徴、文化の一部になっていきたいです。

-最後に読者のみなさんにメッセージを。

1枚のクッキーを食べるという小さなアクションでも、社会問題の解決につながるということを伝えたいです。まずは、ovgo Bakerを通じて「プラントベースのおいしさ」を是非体験していただきたいです。国内では、まだプラントベースの食材を手にできる場所が限られていますし、健康志向のイメージが先行しているように感じます。ovgo Bakerを通して、プラントベースに対する「おいしくなさそう」というマイナスイメージを「おいしくて、さらに社会や環境にも良い」というポジティブな印象に変えていきたいと考えています。
 
匂いや味って、記憶に残りますよね。みんなで食べたおいしい瞬間が、何気ない日常の中にある。お土産やプレゼントとして人の思いやりの部分をそっと支えられるような、日常に花を添えられるような存在でありたいです。より身近に、お客さまのライフスタイルに溶け込めるような世界観を目指しています。

編集後記

ヴィーガンやプラントベースという言葉は、環境や社会に良いというイメージとともに世の中に広まっていく一方で、どこか難しそうな、敷居の高いものと捉えられてしまうこともあります。しかし、髙木さんが明るくキラキラと輝く笑顔で語るovgo Bakerは、食事の選択肢の1つとして、とてもたのしそうな印象を受けました。
ovgo Bakerというお店は単なるクッキー屋さんではなく、お客さまやスタッフ同士が垣根を越え、事業を作り上げている。好きすぎてスタッフになってしまう程、お店のファンになってくださるお客さまがいるのも納得です。ショーケースにはかわいくて、おいしそうなクッキーがずらり。選びきれなくて、取材後思わず大人買いをしてしまいました。一口ずつ、おいしくたのしく、環境問題や社会問題に取り組める。みんなのやさしい未来に向かう一口がそこにありました。

取材・文:Matsuda Reina
撮影:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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