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本当の目的は、お金を稼いだ先にある。マザーハウス副社長・山崎大祐さんに聞く、社会を良くするビジネスの可能性

思い入れのある持ち物はありますか?それを買った時の思い出や、贈ってくれた人の気持ちなど、声なき「もの」の背景にあるストーリーは時に、大きく語りかけてくることがあります。

株式会社マザーハウスは、途上国といわれる国々の可能性を伝えるべく、地域の素材を開発し、自社工場を建て、医療や健康に配慮した現地採用を行いながら、高品質のバッグやジュエリーを作っています。
創業から17年を迎えた現在、同社製品の生産国はバングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの6カ国。販売店舗は国内に40店以上あるほか、台湾、シンガポールにも拡大。ブランドの成長と課題解決を両立させながら事業成長を続けています。

わたしたちは一体、どんなお金の使い方をすることが、社会課題の解決に繋がるのか。そんな疑問を、同社代表取締役副社長の山崎 大祐さんに聞きました。

山崎 大祐さんのプロフィール
株式会社マザーハウス代表取締役副社長。慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にてエコノミストとして活躍後、2007年退職。大学の後輩である山口絵理子氏と共に、「モノづくり」を通じて「途上国」の可能性を届ける株式会社マザーハウスを創業、副社長に就任。2019年3月より代表取締役。年の半分は6つの生産国と3つの販売国を中心とした海外を巡りながら、従業員数が約800人となった同社のマーケティングおよび生産管理を担当。その他(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事など。


人も会社も「お金があれば幸せ」ではない


-山崎さんはエコノミストという経済の専門家から、マザーハウスを創業して経営者になられていますが、ビジネスにおける「お金」の存在をどのように捉えていますか?

語りきれないほどいろいろありますが、ひとつ挙げるとすれば、お金はゴールではなく手段でしかない、ということです。確かに何をするにもお金は必要ですが、決して最終的なゴールではない。そのことを大切にしながら、会社も、そして僕自身もこれまでやってきました。

こんなことを言うのはおこがましくもありますが、残念ながらお金をゴールにしてしまっている会社も少なくありません。お金がないと本来の価値や可能性を出し切れず、その結果不幸な状況になってしまうこともあります。しかし、お金があれば幸せになるわけではない。これは人も企業も同じです。

マザーハウスという会社もお金を稼がなくちゃいけないし、お金を稼ぐことについてはものすごく強烈に考えてきました。会社のミッションや社会的価値も大事にしているからこそ、「絶対にビジネスとして成功させなければいけない」という意識も高く持っています。

お金を稼いだ先にある「本当にやりたい事」が何なのかを明確にし、「何のために」稼ぐのかという目的意識も、会社全体として強い方だと思います。それこそがマザーハウスを始めた背景でもありますし、一般的に社会起業家と呼ばれる方々と僕らの違いはこの点かもしれませんね。

多様な価値観における「正しさ」と「時間軸」


-山崎さんは「株式会社だけどIPOはしない」とお話しされていることがあります。それはどんな理由なのでしょうか?

株式会社として起業した理由は、株式会社として利益を出し続けることが一番僕たちのやりたいことができるからでした。

僕らのモノづくりは途上国と呼ばれる国に行き、その地域の素晴らしい素材や技術を活かして、途上国の可能性に光が当たるようにしながら行っています。地域を巻き込むためにはこの進め方が欠かせないのですが、実は、ものすごくお金も、そして時間も掛かるやり方なんですね。だからこそ、きちんと稼ぎ続けて利益を出さないと続けられないビジネスモデルです。

僕はもともと証券会社出身ですので、金融市場はウラも色もない、数字で評価されるフェアな場所だということを知っています。その仕組みを否定するつもりは全くないのですが、金融市場の「正しさと時間軸」は、僕らの「正しさと時間軸」とは合わないんです。よくイベントなどに呼ばれて「IPOしない」と言うと、他の登壇者たちから「するべきだ」と言われることもありますが(笑)理由はそれだけです。

金融市場の「正しさ」とは、企業の数字から成長を読み取り、株式への還元を評価することです。最近の傾向として、企業の社会性を評価するようなことも言われていますが、僕はそれはある意味で間違っているとも思うんです。なぜなら人の価値観は本当に多様ですし、同時に、多様であるべきですから。ある国ではAが正義でBが間違ってるとしても、他の国ではABが逆転することだってあるでしょう。金融市場が数字だけを見ることは理に叶っているし、フェアであって、必要なことでもあります。

ただ僕らのビジネスで信じている価値観は、その仕組みとは違うところにあると言えます。それがもうひとつ、「時間軸」と言った理由です。

信じる光景は、自分たちでつくらなくてはいけない

金融市場では四半期ごとに成果を見て取引の情報を提供しますが、マザーハウスの場合、自社工場を建てるために5年先の計画を立てたり、10年先の世界を想像して事業計画を作ります。今もちょうど、2028年に建つ工場の話を進めているところですが、まずは「理想的な工場ってどんな工場だろう?」という議論から始めるんですよ。

構想中の工場には、例えば、屋根にその地域の伝統工法を活かしたり、地域の人々に開かれた病院を併設しようとしています。どの国でも、学校と病院が求められているからです。

そんな議論をしている間は当然ながら、お金だけがどんどん出ていきますので、短期的に見たら収益は下がる。金融市場の既存の考え方で言ったら受け入れてもらえません。でもここにこそ僕らの「正しさ」と「時間軸」、そしてマザーハウスの存在意義があります。

もちろんこれはあくまで僕らの視点の話ですので、決して金融市場を否定するわけではありません。投資家にとっては、時間を掛けて地域と一緒に進めるビジネスよりも、生産性の高い工場を建てて短期的に収益を上げてもらいたいでしょう。でもそうした期待に応えようとすると、生産性が高く最もコストが安い工場の姿は「コンクリートの白い箱」になります。

実際バングラデシュなどに行くと、すでに「コンクリートの白い箱」の工場がたくさん建っています。仕事が増えると喜んでいる人もたくさんいますよ。ただ、皆さんに想像して欲しいのは、子ども時代に野球などをして遊んだ野っ原が潰されて、白い箱の建物ができたら嬉しいですか?中長期的に考えて、白い箱ばかりが並ぶ風景って美しいでしょうか?

僕らが懸念するのはまさにそういうことです。本当に多様性のある世界にしていくためには、まず多様な世界を作らなくてはいけない。必ずしも数字で測れない価値が存在することを信じていますし、問題意識をもって、ビジョンを示して、ストラクチャーを作って実現する。それが経営者の仕事だと思っています。

ただ現実は本当に大変ですよ。本当はこういう話も、マザーハウスを売上2000億円くらいの会社にして、こういうやり方もあるんだ!と見せつけてから話したかったですね。正直もう少し早くできると思っていたというか、こんなに大変だとは思わなかったです(笑)

ゼミで体系化した経営者としての智慧


-山崎さんはマザーハウスの経営とは別に、ビジネスゼミも運営されていますね。

Facebookに書くくらいしか宣伝してないので、これまであまり話す機会もなかったのですが、今は全部で3つのゼミをやっています。起業家や経営者向けの「想いをカタチにする経営ゼミ」、リーダー向けの「ビジネス教養ゼミ」、あと大阪のQUINTBRIDGEで開催している経営ゼミですね。もともとは今スリランカで「Tagiru.」というアーユルヴェーダのホテルを経営する伊藤修司くんがマザーハウスを辞める時に提案してくれて、一緒に手弁当で始めたものでした。

自分が経営ゼミをやるなんて考えていませんでしたけど、ありがたいことに僕のところには想いのある経営者たちが「話を聞かせてほしい」と来てくれることがあって、個別に対応するのも時間の限界がきたこともきっかけにありました。

それと僕はもともと経済思想や計量経済学が専門で、前職でもアジアの金融危機を研究していましたが、ビジネスのことは嫌いだったんです。経営者になるなんて考えてもなくて、資本主義に代わる仕組みを考えていたくらいでした。

でもいろいろ知っていくうちに、株式会社で起業することはガバナンスも効かせられるし、自分たちの好きなことができて、ビジネスってすごい可能性があることを知ったんです。そうした背景をもって今現役で経営をしている自分だからこそ、プレイヤーとして、同じ経営者たちに伝えられることがあるかもしれない、と思ったことも大きかったです。

今の3つのゼミの他に、今期はまた、事業規模10億円前後のビジネスをつくる「ビジネスプランニングゼミ」も開催します。どのゼミも自分で内容を考えて、スライドにまとめています。参加者はみんなすごく忙しい中で時間も参加費も掛けて来てくれるので、そのプレッシャーもあってすごく大変ではありますが、ものすごく学びが大きくて、最高ですね。自分の中にある、言語化せずにいた知識や経験値が、言葉にすることで体系化されていくんです。やっぱり人に教える以上に学べることってないですね。


-マザーハウスの社員さん向けにもゼミがあると聞きました。

そうですね、ゼミをすることで得た知識を社内にもってくることにしました。僕は9時〜18時はマザーハウスの仕事をしていて、ゼミなど社外のことはそれ以外の時間にしてるんですが、それでもマザーハウスのみんなに言えないようなことはしたくないと思っています。なので外でしていることを伝えるためにどうしたらいいか考えて、社内でマザーハウスビジネススクールというゼミをやっています。

社外でのゼミを始めて以来、僕自身も経営に関するいろんなことが効率よくできるようになり、リーダー教育もそのひとつだと言えます。マザーハウスビジネススクールでは、マネジメントなど20名くらいに向けて、ファイナンスやビジネスの思考法などを伝えています。まだまだできてないことも多いですけど、外で得たものを内に入れる循環がつくれたことは良かったと思います。

想像の及ばないこの世界の中で

-マザーハウスの今後として、どんな方向性を考えられていますか。

あえて言うなら「あまり考えていない」ですね。もちろん事業計画は四ヶ年とかしっかり作っていますし、それは会社のみんなも疑いのないことなのであえて言えることですけど。

というのも、いろんな国で事業をしていると、本当に想像のつかないことが起きるんですよ。コロナ禍だってそうです。まさか僕らにとってこんなに大切なお店が開けない日が来るなんて、思わなかったですもん。

想像のつかない世界に生きているからこそ、その中でしなやかに、ちゃんと生き残っていくことが求められる。そのためには理念である「WHY」を変えずとも、やるべきことである「HOW」は柔軟にしておく必要があります。逆にHOWのプランニングばっかりしてるビジネスは危ないと思いますよ。

僕らは今後も、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という存在意義をブラさずに、しっかりとビジネスを続けていきます。

編集後記

圧倒的な言葉の量と熱いお話に、感動を覚えた取材でした。「伝えたいこと」の多さを知ると共に、できるだけ提供しようとしてくださる誠実さもまた、山崎さんの求心力なのかと想像します。

また本記事の撮影中、奇跡のような偶然に遭遇しました。10年ほど前にマザーハウスの社員さんだったという方が通り掛かり、久しぶりの再会に驚きの声を上げるお二人。山崎さんは当時交わした雑談も記憶していると笑顔で話しながら、「今の会社はどう?自分らしく働けてる?」と聞いていました。一瞬のことでしたが、咄嗟に出る質問ににじみ出るほど、常に本気で、多様な価値観の実現を考えてらっしゃることを感じた出来事でした。

マザーハウスのお話を中心に聞いた本記事とは別に、山崎さんが考える「社会を良くするお金の使い方」についてもお聞きしました ので、合わせてご覧ください。

取材・文:やなぎさわまどか
写真:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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