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すべての人は経済人である。マザーハウス代表副社長・山崎大祐さんに学ぶ「社会を良くするお金のつかい方」

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を掲げ、高品質で誠実なものづくりを行う株式会社マザーハウス。決して簡単ではない問題に向き合いながら、ブランドを大きく成長させ、世界には多様な美しさがあることを示し続けています。

今回Money for Goodでは、マザーハウス代表取締役副社長の山崎 大祐さんにお聞きした社会をよくするビジネスのお話に続き、「社会を良くするお金の使い方」についても教えていただきました。

日々の暮らしを守りながら、社会課題の解決や、社会にとって良いお金の使い方は可能なのでしょうか?また、お金の好循環は現代社会で実現できるのか?そのために今わたしたちがするべきことはどんなことか?

素朴で基本的な、でもきっと同じ疑問を抱えながら暮らす人も多いであろう質問に、真摯に答えてくれた山崎さんのお話をお届けします。

山崎 大祐さんのプロフィール
株式会社マザーハウス代表取締役副社長。慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にてエコノミストとして活躍後、2007年退職。大学の後輩である山口絵理子氏と共に、「モノづくり」を通じて「途上国」の可能性を届ける株式会社マザーハウスを創業、副社長に就任。2019年3月より代表取締役。年の半分は6つの生産国と34つの販売国を中心とした海外を巡りながら、従業員数・約800人となった同社のマーケティングおよび生産の管理を担当。その他(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事など。


「社会に良いものだから買う」をしない


-山崎さんが個人的にお金を使う時は、どんなことを大事にされていますか?

ありがたいことに、これまで僕の経営ゼミに来てくれた人たちがすでに300人ほどいて、その多くが起業家や経営者です。そのおかげで、ゼミ生たちのお店で買い物をすることで、世界中の社会課題を考慮した買い物ができています。

また業界によっては良い話だけではなく、あまり良くない話を耳にする機会もあるので、共感できない価値観の会社で買うことは避けますよね。ただその一方で、「社会に良いから」という理由で買い物をすることもありません。


-それはなぜですか?

「これは社会にとって良い」という商品基準は、誰かが何からの理由で規定したものだからです。僕はもともと、人ってすごく弱いものだと思っているんです。決してそこに幻滅しているわけではなく、人とはそういう存在で、弱いことも人の美しさのひとつであると考えています。

ゼミや講演の中でよく、倫理的にも論理的にも価値のある「真善美(しんぜんび)」の話をするんですけど、誰かが定めた基準ではなく、弱く美しい存在である自分の価値観が「良い」と感じるもの、自分自身がこれは美しい、と感じるものを買っていますね。

バングラディシュなどで仕事をしていると、こんなに美しいものがあるのか、と思うこともたくさんありますが、その中には、僕らにはない美しさのこともたくさんあります。

例えば彼らは一般的に、家族で助け合うことが多く、いつでも家族のために生きているし、家族の関係が最優先。そんな彼らはすごく美しいです。でももしそれを世の中の正しさだと押し付けられたら、僕みたいに母とあまり関係が良くない中で育った立場としては苦しくなるんですね。

そして一方で、僕が思う美しさや正しさによる購買行動で、救われている人もいるわけです。自分の思う美しさで選択すること自体が、すでに誰かのためになっている行いです。

決してどちらが良いとか悪いという話ではなく、いろんな考え方があって良い。いろんな価値観があって、それぞれに基づいたお金の使い方をしているから世界は多様になるし、それだから社会って面白いんだと思います。

一つの価値観だけが力をもってしまうことは危険だし、みんながもっと自分の価値観に従って買い物したり、投資したりできる社会を作る必要がありますよね。

自分の「真善美」を身につけるために必要なこと

-そうした真善美は、どうしたら身に付くのでしょうか?

個性だと思います。これは卒論で書いたことでもあるんですが、まず、人は誰でも経済人なんですね。買い物をしたり、お金を貯めたり投資したり、働いてもいる。つまり皆が消費者、投資者、そして労働者です。でもそれらを一つの価値観でできてない人がとても多い。例えば、個人では環境保護活動をしているのに勤務先は環境破壊のような事業をしているとか。なぜか?それは選択肢が少ないからです。

卒論を書いた当時はちょうど、企業の社会的責任を基準にしたSRIファンドや、エコバンクが話題になった時で、そうした仕組みの体系化と消費者行動が一貫できると良い、というようなことを論文にしました。

でもそれは、自分がどういう社会を願うのか、何に喜びを感じるのか、自分の喜怒哀楽がわからない限り、自分の価値観に基づいた消費行動なんてできないんですよ。自分のことがわからないから、誰かが作った”社会にいい基準”に沿って行動してしまうわけです。

しかし残念ながら今の日本では、個性を気づかせてあげる教育ができていません。それはやはり変えていくべきだし、金融教育だって個性を理解することから始まると思います。


-どんな金融教育が実現できると良いと思われますか?

金融教育は2つあって、ひとつは単純にスキルとしての計算です。100万円を1%で運用すると1万円入ってきます、というような計算ができること。先ほど言ったように全ての人は経済人ですので、これは皆にとって重要なスキルです。

もう一つの金融教育は、「世の中のことを理解する」ことです。僕はこれがめちゃくちゃ大事だと思っていて、いろんなところでこの話をしてるんですが、世の中は全くその方向に進んでる様子はないんですよね。

どういうことかと言うと、例えば、マザーハウスに入社した時の僕はCFO(最高財務責任者)でした。CFOってお金を計算したり予算を取ってくる人だと思われがちですが、実は違います。CFOは、この人を年収1000万のポジションで雇っていいかどうか、あるいは、この工場建設に1億円の投資をするべきかどうか、といった、新たに価値を生み出す可能性があるものを計算する仕事です。価値の計算をするためには、世の中のあらゆることを理解する必要があるんです。

お金が示す価値の裏にあるものは万物であり、金融教育とは、社会全般を教えることです。なのに僕たちはそんなこと全然教えてもらえないですよね。でも実はとてもシンプルなことで、僕は、小学校3年生くらいになったら十分に理解できると思うんですよ。

仕組みを考えられる人が求められる社会


例えば、小3の子どもに1000円を渡して「自分のためじゃなく、誰か他人のために使って」とお願いする。3年生にもなれば、自分以外、と言われた瞬間に、その1000円が誰のためにどんな価値を生み出せるか考えられるはずです。弟のためにお菓子を買う子もいれば、ホームレスの人に食べ物を買って届ける子もいるでしょうし、駅前の募金箱に入れる子もいるはずで、価値観の捉え方としては最高の金融教育ではないでしょうか。

実際、全国の高校生を対象にした「マイプロジェクトアワード」という探求成果を発表する大会の最終審査員をさせてもらってるんですが、高校生たち皆さん本当に素晴らしいですよ。未来を真っ直ぐに見てるし、希望があります。本来、高校生でなく大人にも希望があるはずなのに、大人は毒されて希望をなくし、残念ながら高校生たちの道を間違った方向にさせてしまっている気がします。

もちろん輝いてる子たちに現実の厳しさを教えてあげることもとても大切なので、そのバランスが重要です。高校生に限らず、誰かの思いや実現したいこと、もしくは自分自身のやりたいことに対しても、それを形にしてあげられるストラクチャー設計が上手い人たちを、もっと評価する社会になると良いのかもしれません。

皆がみんな大きな挑戦をする人になる必要はないので、いろんなレイヤーで、それぞれが自分らしくある仕組みを作っていくことが求められてると思います。

誰かの可能性を開く、お金の使い方

-山崎さんご自身は、どんなご経験からお金の使い方に気づかれたんですか? 

それはもう、マザーハウスに教えてもらったことです。17年前、山口と二人で会社を作る時、最初の資本金として250万円を出しました。それは僕の人生において最高の買い物だったと言えます。創業後、山口自身もめちゃくちゃ努力したし、後から僕自身も入社したので自分の人生が変わったし、今は世界に800人もの仲間がいて、バッグを買ってくださるお客様と出会っている。250万円が人の可能性を開いて、社会にインパクトを与えられると教えてもらったんです。

心からワクワクすることにお金を使って初めて、お金は手段でしかないという実感ができました。そういう意味で、お金は使う方がいい、と言いたいです。ゴールドマン・サックスでエコノミストをしていた前職ではすごくいいお給料をもらっていましたが、お金の価値を初めて教えてもらったのは本当、マザーハウスに入ってからですね。

僕自身は母子家庭の、経済的にはとても苦労した家庭で育ちました。小学校の同級生と同じように中学受験ができず、母を責めたこともありました。でも給付型奨学金で通わせてもらった中学と高校は本当に楽しくて、僕は本当に大好きだったんです。今思うとあの頃がなければ今の自分はないとも思うし、歳を重ねるごとに、奨学金があったことに感謝しています。

そうした自分の経験からも、お金がものすごく貴重であることや、誰かの可能性に直結していることがよくわかるんです。それにお金って、あるところにはめちゃくちゃあるんですよ。なのに本当に必要な人のところには全然届いていない。それを思うと涙が出るほど、なんとかしたい、と思いますよね。お金が人の幸せを作るのではなく、お金がちゃんと誰かの可能性に流れることで、人の幸せができるんだと思います。

「現実社会」と「願う社会の姿」のはざまで

-社会課題は気になるけど、自分の暮らしや経済合理性とのバランスに悩む人たちへ、メッセージをお願いできますか。

その悩みを持つことは健全だと思います。僕は今43歳ですけど、43歳になっても結構ブレることがあるんですね。自分ってなんだろう、自分は何をすべきだろうって迷い続けています。願う社会を描くほどに、もっとお金があればできるのに、と思うこともたくさんあります。

経済合理性と自分のやりたいことはどちらも現実なので、そのはざまで絶えず妥協したり悩んだりしながら生きるのが人間です、だからずっと悩んでいても良いと思う。ただ、悩みながらもやらなきゃいけないことは、行動することです。

行動しないと自分の価値観なんて見えてきません。僕がマザーハウスに250万円を出して、良いお金の使い方を知れたことや、小学3年生に1000円を渡すのと同じですね。大人になったら1000円ではなく100万円や1000万円かもしれないですけど、使ってみて、手放して初めて、自分が「何にお金を出したいと思うのか」を知ることができます。

ただ考えているだけでは何も答えは出ないので、自分が何を大切に思うのかを知ること、そのために行動すること。お金を使ってみたり、ちゃんと考えて投資先を選んだり、そういうこともスキルですから、自分で考えてやってみるしかありません。隣の芝生は青く見えると思いますが、自分の道を確認しながら、しっかり生きていきましょう。

編集後記

本当に必要な人にお金が届いてほしいと話しながら落涙される山崎さんの言葉が印象的で、心の底からお金について考える機会になりました。そしてもしも、小学生の時に本質的なお金の役割を教わっていたら、今頃どんな自分の可能性が開いていただろうかと考えずにはいられません。

次世代がまっすぐに歩める社会になるよう、大人の一人として、消費行動の一つひとつをもっと主体的に考えていこうと思います。自分も経済人の一人である、という自覚をもって。

取材・文:やなぎさわまどか
写真:内海裕之
企画・編集協力:ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD編集部

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